長編
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ひたすら駆け抜ける中で、私の頭は疲れだけでなく混乱で満たされていた。
今日は厄日なのか。
ここはどこなのか。
私はなぜここに居るのか。
どうやって来たのか。
そして、周りに居る人達は一体何者なのか…。
ぐるぐる、ぐるぐる、充満する疑問に頭が割れそうだ。
着物のおじさん三人組から逃げつつ、ちらと周りの人間達に目を向ける。
皆一様に駆け抜ける私達に驚いて、ご丁寧に道を開けて行く。
いや、助けてよ。
そして、そんな着物のオンパレードの中に、結構な確率で恐ろしいモノが目に映る。
そう、これが私にとっては今一番の疑問であり恐怖だ。
「あれ…なんなの…」
ここはあれか、テーマパークかなんかなのか。
入場者は皆着物を着て、スタッフは着ぐるみを着るっていう、ちぐはぐな世界観を持ったテーマパークなのか。
なんだそれ。何をテーマにしたテーマパークだよ。
テーマが不明瞭すぎて、もはやただのパークだよ。
「待てコラー!」
「逃がすな!」
「しぶてぇ嬢ちゃんだな…!」
じゃあこうして私が追いかけられてるのも、イベントかなんかですか。
入場者を楽しませるための、サプライズ的なあれですか。
超 迷 惑。
ここがどこなのか、見かけた着ぐるみらしきモノがなんなのか、色々な疑問を抱えながらもただひたすら足を動かした。
私、今日だけで何キロ走ってるんだろう。
「はあっ…はあっ…」
もう、無理、疲れた…。
さすがにこれだけ体を酷使していれば、限界が来る。
疲れ切った足が止まりそうになった、その時。
「!…わわっ」
ズシャア!!
そんな盛大な音と砂煙を上げて、足をもつらせた私はこけた。
うわ、こけたの何年振りだろう。
「痛…」
膝に鋭い痛みを感じる。
あー擦りむいちゃったかな…。
「…手こずらせやがって」
「え…」
傷を確認しようと顔を上げた時、視界に影が差すと同時に低い声が身近で響いた。
途端、物凄い力で腕を引っ張り上げられる。
「っ…や!」
「捕まえたー」
「はあ…ぜえ…お嬢ちゃん、足早いねぇ」
「もう逃がさねぇぞ」
私がこけた事で、一気に距離が縮まったのだろう。
追いかけてきていたおじさん三人組は、息を荒げながらも私を囲んでにやりと笑った。
掴まれた腕が、ぎりぎりと握りしめられる。
「やだやだやだ!離して!」
「離すわけねぇだろ」
「おい、さっさと連れて行くぞ。野次馬に通報されたら面倒だ」
「ひひひっ久しぶりの女だー」
「っ!」
おじさん達の会話の内容を耳にして、体中に悪寒が走った。
頭に警戒音がけたたましく鳴り響く。
なに?なんで目がマジなの?
パークじゃないの?モノホンなの?
どーいうこと?
これは、本当に、やばい?
青ざめた私にまた下卑た笑みを向けて、おじさん達は私の腕を引いた。
連れて行かれる…!
「いや…!助けてぇぇぇぇ!!」
めきょ。
「「「え」」」
どがしゃぁ!!!!
「「「………」」」
…一瞬の出来事だった。
確かに私は最大のピンチを迎えていた。
だが、今私の腕は何にも拘束されておらず、結果から言うと無事だ。
拘束していたおじさんはと言うと、今、生死不明だ…いや、死んだか?あれ。
おじさんは、私を連れて行こうとその瞬間、轢かれたのだ。
何にって、なんかよく分からないけど、バイクっぽいのに。
「「あああああ兄貴ー!!!!」」
一瞬の事で、何が起きたのか一遍に理解出来ず、残されたおじさん二人が嘆いているのをポカンと見詰めていると、横から気の抜けた声が聞こえてきた。
「あーまたかよオイ…ホントにこのバイクはなんなのかねーホントもう…というか」
白い着流しに、銀色の髪。
その風貌は、時代遅れな周りの雰囲気に比べると少し異質だった。
「道の真ん中にいると危ねぇだろおじさんコノヤロー」