その他・復活1

□それは小さな恋にも似ていて
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私はほとんど三年振りに会った幼馴染みを見上げた。今までどこにいたのか、とか背が伸びたね、とか言う前に、彼の口から見知らぬ男の名前が出たので、私はそうするしかなくなってしまったのだ。十代目だかボスだか知らないが、私にとってはこれっぽちも関係がない。彼の左腕に五本の指は見当たらなくて、代わりにぐるぐる巻かれた包帯だけが現実を物語っていた。彼は私の知らない間にどこかへ行ってしまっていて、私の知らない間に大人の男になっていた。会えて嬉しいのか、彼がすっかり大人びていたことが寂しいのか、私には見当も付かない。何か音を発しようとする唇は震えるばかりで、彼は困ったような悲しいような顔をした。私は知っている。次に彼が紡ぐのは、別れの言葉であることを。だけど私は知らん顔をした。だって彼が私にキスをしたからだ。この人のこんなにも力強い腕に抱き寄せられる日が来るなんて、川辺でじゃれ合ったあのときは夢にも思わなかった。暖かい。彼が誰より優しく、そして孤独であることを、私は知っている。否、それしか知らないのだけれど。だけど他の人より長い時間一緒にいた彼を、たったそれだけででも繋ぎ留めておきたかった。そして私から言いたかった。せめて彼が長い口付けに飽きる前に、私の背中を抱き締めている腕を離す前に。

「Arrivederci」

昔と変わらぬ銀色が太陽の光で眩しく輝いて、私の眼球を刺激した。薄汚れた私にとって、それは酷く似つかわしくない光景であった。


それは小さな恋にも似ていて

(2008/1/20)


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