その他・復活1

□壊れたビルの狭間から見えた青空は
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私の携帯を鳴らしたのはキャバッローネのディーノさんだった。何でもスクアーロが重傷だから、今すぐどこそこの病院まで来て欲しいと言う。そんな安い手には乗らない、スクアーロは今リング戦で忙しい筈だと怒鳴りつけてやったら、どうやらそのリング戦が原因らしい。後ろの方でディーノさんの部下があたふた言ってる声がするから、その話はいよいよ私の中で現実味を帯びてきた。ディーノさんの声色が少し焦りを含んでいる。もしかしたらこれは本当なのかもしれない。電話を切った数分後にディーノさんの部下(ロマーリオじゃないことは確かだった)が車で迎えに来てくれた。最も私は居ても立ってもいられなくなって一足先にアジトを飛び出していたのだけれど。

馬鹿でかい病院へ駆け付けると、そこにはディーノさんたちが私と手術中のスクアーロを待ち構えていた。詳しい話を問いただしたところ、スクアーロはリング戦で負けて海洋生物に食われそうになったらしい。あのバカ!といつものように笑い飛ばす元気が、私にはなかった。大きな手術だか何だか知らないが、とにかく早く終わって欲しい。そしてまたあの声で名前を呼んで欲しかった。手術室の前をうろうろうろうろ歩き回ること数時間、傍目には立ちっぱなしの私の足が大丈夫かと思われてきた頃、漸く手術中のランプが切れて入口の扉が開いた。

「スクアーロ!」

一番に私が飛んで行って、その後からディーノさんが難しい顔をしてやって来た。手術は無事終わったので、後は意識が戻るのを待つだけらしい。マスクを外す医師に本当に助かるんだろうなと噛み付いてみると、彼は首を縦にも横にも振らなかった。今にも掴みかからんばかりの私を抑え付けるディーノさんに、今度は八つ当たりした。近くにいたくせに、とかこのキャバッローネ、とか、でも本当は一番苛ついていたのは自分自身に対してで、なぜリング戦を見に行かなかったのか今になって死ぬ程後悔した。私だったら危険な海洋生物も赤外センサーも顧みずに、真っ直ぐスクアーロを助けに行っていたのに!昔からスクアーロが強いのが当たり前になっていて、心配すんなと言った彼を応援しに行くことをすっかり忘れていた。ごめんね、スクアーロ。ぽろぽろと悔し涙を溢す私を慰める役目はやっぱりディーノさんだった。この人にも後で謝らなくてはいけない。現にディーノさんが部下を忍ばせていてくれていなかったら、きっと今頃スクアーロは地獄にすら辿り着けていなかっただろう。私はスクアーロの命の恩人たちに感謝と謝罪の意を込めて、病院の冷たく白い廊下を歩いた。病室に着いてからもスクアーロ、スクアーロと何度も呼んでいたら、気のせいではない、彼の髪と同じ色をした眉毛がぴくりと動いた。

「スクアーロ!」

私はガンッと音を立ててベッドの柵にしがみ付いた。スクアーロがうっすら目を開けて、私の大好きなグレーの瞳が私を映した。よかった、生きていた、スクアーロは生きていてくれたのだ。ボロボロの身体は縫い傷と包帯だらけで、それでもやっぱりスクアーロは私に笑ってくれた。ありがとう、スクアーロ。後方でディーノさんが安堵の息を吐くのが聞こえる。私もスクアーロにつられて、にっこり微笑んだ。



壊れたビルの狭間から見えた青空は

(スクアーロ!)(う゛お゛おい、これから色々面倒だぜぇ)(知ってるよ、でもスクアーロが傍にいてくれれば平気だもん)(分かったからもう泣くなぁ)(うわあああん!)


(2008/1/20)


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