その他・復活1

□ジャッポーネの女の子
1ページ/1ページ



オレはジャッポーネに来て初めて、任務以外で外を出歩いた。以前雑誌で見たような所謂日本家屋というものはどこにも見当たらず、とても正気の沙汰とは思えない馬鹿でかいビルが立ち並ぶだけの街であった。おまけに回りを見渡せば、どこもかしこも歩いているのは家族連れや男女のグループ(日本人がこれをアベックと呼ぶ時代は当の昔に過ぎ去ったことを、オレは後から知った)ばかりで、早くも気が滅入りそうになる。やはり一人で来るべきではなかった、ジャッポーネの都会とは、オレをそんな風な気持ちにする力を持っていた。例えば、無理矢理にでもベルを引っ張ってこればよかったか――いや、そんなことをすればこの腑抜けた街が一瞬で血の海へと変わり果てるのは目に見えている。オレは小さく身震いした。

交差点の信号が青に変わったとき、ふと前方を見詰めたオレの目に止まったものがあった。女だった。日本人特有の、しかし此方へ来てから一度も見かけなかった漆黒の髪が、淡いブルーのキャミソールによく映える。何故だろうか、どこかつまらなさそうだ。女はオレ同様、たった一人である。このだだっ広い街の真ん中で。そうか、つまらなさそうしていたなのはそのせいなのか。妙に納得したオレは、すぐに人の波に従って足を進めた。先程青になったばかりの信号は、既に点滅し始めていた。忙しい街だ。もう一度顔を上げたときには、向かい側にいた女の姿は消えていた。

(う゛お゛ぉい、お前、寂しいのかぁ?)

数分後にはオレの記憶からいなくなるであろう女に向かって、オレは心の中でそっと、話し掛けてみた。



ジャッポーネの女の子

(それが恋だなんて知るのは、一体何百年後の話だろうか、そのとき既にもう、お前はオレの中にいないというのに)


(2008/2/3)


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ