その他・復活1

□君は全身で僕を愛した
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あの人はどんなときでも、無邪気な顔をする。例えばそれが愛の言葉を囁くときであっても、ディーノは初めてテストで満点取ったときや、海へ行こうかと誘ってくれるときと同じ顔をする。

「オレさ、やっと正式な後継ぎなったんだぜ」

だから今日も、ディーノはまたいつもと同じように笑った。ときどき女の子じゃないかと間違うくらい綺麗な顔に似つかわしい、白い歯を惜し気もなく見せながら。いつの間にかうんと背の伸びた幼馴染みは、10センチも上から私を見下ろした。何の後継ぎかなんて聞かなくたって分かる。私と違って、まるで最初から決まっていたみたいにこの学校へ入学したディーノは、マフィアのボスになる人だ。本人は私が知らないとでも思っているのだろうか。ボロボロになって帰ってきたときだって「喧嘩しただけ」とやっぱり無邪気に言ったディーノを、私は凄く鈍感で不器用なんだと思った。そんな彼に大きなファミリーの次期ボスが務まるのだろうか。私の心配することではないのだけれど。そんなとき私は、一つ上の彼を追うようにこの学校へ入ったことをいつも後悔する。ロマーリオやスクアーロの話をするときの彼は、まるで私の知らない人みたいだ。今も私を抱き締める腕は、随分逞しくなった。もう彼は、私の知るディーノではないのだろうか。
抱き締められたまま何か言おうと口を動かすけど、乾いた唇はぱくぱくと無意味に上下するだけで、音を紡ぎ出すことはない。涙の膜で覆われた目は、役割を忘れてしまったかのようだった。微かに鼻を啜る私に気付いてか、ディーノが私の頭を自分の肩にぎゅっと押し付けた。私のより大きな手が髪の毛をくしゃくしゃにする。溢れた涙がディーノの服の色を変えた。早くいつもみたいに好きって言って、熱に浮かされたような声で名前を呼んで。ベッドに押し倒されるとき、耳元でディーノが「Ti amo」と囁くのが聞こえた。ディーノのくせに愛してるだなんて生意気だ。格好いい。
泣いていた私はよく見ることが出来なかったけど、彼はやっぱり無邪気に笑っていたんだろうか。



君は全身で僕を愛した

(冗談を言うときも愛を囁くときも、あなたはいつものように笑うんだろうか)


(2008/2/10)


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