その他・復活1

□Ah, Lei è mio favorito.
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「悔しいです、九代目」

雲が高く、晴れた日だった。ザンザスの誕生日まで、あと三日ある。
私は人ごみに紛れ、少し離れた場所から埋葬の様子を見守った。呟いた言葉は、誰の耳にも届くことはなく風に消されるだろう。仮に聞こえていたとして、参列者たちは私があなたの死を悔やんでいると思うだろうか。だがそうではない。私はあなたが死んだことによって、あなたがもう二度と罪を償えないことが悔しいのだ。あなたはもう口を利けない。結局、あなたの本心は最後まで分からなかった。あなたは後悔しただろうか。

「ザンザスは来ていると思う?」

私は隣に立つスクアーロへ尋ねた。彼は「さあな」とだけ返したが、どちらもザンザスの姿を探そうとはしなかった。沢山の参列者の中、私たちだけが黒い服を着ていた。イタリアでは二十年以上も前から喪服を着る習慣はなくなっていたが、私たちはその中で敢えてその色を選んだ。自分たちに合う色が、それ以外に思い付かなかったのだ。

「あいつら、最後の最後で俺たちが九代目へ敬意でも表してんのかと思うだろうぜ」

とスクアーロは笑って言った。今朝のことだ。朝食に立ち寄ったバールでは、いつもより多くエスプレッソを飲んだ。

「これで終わったのかしら」

私は主語も目的語もない質問をした。しかし十五年以上ザンザスの下で同じ時間を過ごしたスクアーロは、旨を理解したようであった。視界の隅に入るスクアーロは、眉間に皺を寄せていた。考えあぐねているときの顔だ。
ザンザスがあなたに引き取られたあの日に全てが始まったのだとしたら、あなたが逝ったことで全てが終わるだろうか。

「まあ、俺には永遠に終わらなくなっちまったと思えるがなぁ」
「へえ?」
「お前だってそう思ってるんだろうが」
「そうね、そうかも」

スクアーロは以前よりも伸びた前髪を掻き上げた。リング戦の後、後ろ髪と同様伸ばし始めた前髪は、今ではその境が区別できないほど長く伸びていた。遠くで賛美歌が聞こえる。

「じゃあなぁ、じいさん。ザンザスはあんたを憎んでいたのと同じくらい、きっとあんたのことが好きだったぜ」
「……」

私たちは他の参列者と同じように棺に花を手向けた。私も何か言おうとしたが、言葉が見つからなかった。ただ、これだけ多くの参列者に見送られたあなたが幸せな人であったことは理解できた。恐らくザンザスもどこかで見ているであろう。あなたはザンザスにとって父親になることは決してなかったのに、あなたにとってザンザスは最後まで息子であった。何と皮肉なことか。

「帰るかぁ。これで本部での仕事が、また増えたぜぇ」
「あ、晩ご飯はビーフシチューだって」
「クク、ドンの父親の命日にかぁ」

踵を返すスクアーロに従って、私たちは墓地を後にする。集まった人々がぽつりぽつりと帰っていく様子が薄っすら目に入った。秋口の少し冷たい風のせいで、周りの木々が音を立てた。こういう日は早いところ帰って、談話室の暖炉に当たるに限る。

「うう、寒い」



20111010

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