復活連載

□最近の暗殺部隊は日本語も喋れるらしい
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オレたちはジャッポーネへやって来た。空港に降り立った途端、周りの日本人たちがちらほらと此方に視線をやる。何だ、何なんだ。ベルの奴は興味なさそうにそいつらを見てやがるし、ボスはチッと舌打ちしてオレに殴りかかってくるし、マーモンだってそのベルの肩の上に大人しく納まってしまっている。確かに外国人、それも黒服の集団というだけでも目立つのだろうが、それにしても金や銀の髪をさらさらさせながら歩くオレたちは、そんなにも人目を引くのだろうか。

「おい、カス」

先程オレを力いっぱい殴り付けた手で、ボスはオレの髪をぐいと掴んでくる。ボスから話し掛けてくるなんて珍しい。そう思って振り向くと、ちょうどあの変な尻尾みたいな飾りがオレの目の前で揺れていた。

「うっかりしていた」
「何がだぁ?」
滞在する場所がない
「何いぃ!?」

ボスが自分の非を認めるなんて滅多なこともあるもんだ、そう感心しかけたが、次の瞬間奴の口をついで出た言葉が衝撃的過ぎたため、その考えは一瞬の内にして吹き飛んでしまった。全員がだらりと冷や汗を垂らしたことが見なくても分かった。

「う゛お゛おい、それはうっかりすぎるだろ」
「だからそう言ってるだろうが」
「開き直るなぁ!」

オレが普段より三倍くらいでかい声を出すと、ボスの拳がオレのつむじに見事クリーンヒットした。本日八回目の内、一番の打撃である。この先日本での生活を思いやると、出るのは溜め息とちょちょぎれそうな涙だけだった。










1 最近の暗殺部隊は日本語も喋れるらしい










「で、どうすんのボス」

がらがらとキャリーケースと引きずりながら、オレたちは六人が六人ともその姿を目立たせて道を歩いている。荷物扱いで別に送られてくるモスカはどうなったのだろう。オレはボスに尋ねてみたが、いつも通りの口調でまあ大丈夫だと言っていたので、心配はいらないようだ。

「うるせえ、今探してんだろ。てめーらも口動かしてねえで地図を見ろ地図を」
「でもボスさんよぉ」

言ってしまえば組織の幹部なのだから当然といえば当然かもしれないが、この人はどうしても、そこら辺のちんけなビジネスホテルでは気が済まないらしい。それどころか、庶民では考えもつかない桁が四つも五つも違う別荘のようなものを望んでいるらしく、それはまあ、事前に用意してあるなら別として、こんな町中では当然無理な話だった。再度そのことを言おうとしたが、先刻の雷のような頭突きを思い出し口をつむぐ。これで今日ボスから受けた暴力の回数は全部で九回になった。せめて今夜の宿を取ってから考えて欲しいものだが、一晩でも天蓋の付いていないベッドなんかでこの男を眠らせようものなら、それこそオレたちが殺されかねない。そういうオレも、出来るなら早いところ今回の目的であるリングを持ち帰って、行きつけのカフェで買ったカプチーノでボスの疲れを癒してやりたかった。

「おい」

すると不意にボスが足を止める。仲良く一緒に飛ぶ赤とんぼを見て呆けていたオレは、そのまま勢い良く前を歩いていた背中にぶつかってぶっと情けない声を出した。ちょっとむかついたので、後ろで馬鹿にしたように笑ったレウ゛ィに肘鉄をお見舞いしてやった。

「何だぁ、ボス」
「あれは何だ」
「何か配ってるみたいだね。ティッシュじゃないかい?」
「ハッ、下らん」

すぐ前方を見ると、宣伝用のピンクの上着を羽織った女が一人、景色と馴染むようにしてポケットティッシュを配っていた。上着に書かれた文字を見れば、どこかの英会話学校のようだ。ボスが鼻先で笑い飛ばすと、それに気付いたティッシュ配りの女が此方を振り返った。そのとき一瞬ボスが動かなくなったのを、オレは見た。オレたちを視界に入れた女は、オレたちとは違う黒い瞳を微かに細めて、グロスを塗った唇の端で弧を描く。控えめに染められた本来ならば瞳と同じ色であろう髪が、太陽の光に当たって明るい色を発していた。




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