復活連載

□普段強そうな奴ほど、案外精神弱いもんだ
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こんなに寝苦しいのは、ガキの頃、あの寒い家で暮らしていたとき以来だ。それに何だ、この寒い部屋は。女は例によってあの口調で「暖房は消してから寝てくれ」と言い残すと、毛布を十枚くらい押し付けて消えていった。下に敷いたそれらを通して、ごつごつと背中に当たる床からは冷気が這い上がってくる。カス共は寝息かいびき以外の音を立てなくなった。壁時計の音が煩くて眠れないオレは、一体どうしたらいいんだ。










3 普段強そうな奴ほど、案外精神弱いもんだ










だいたい雑魚寝とかいくつだオレたちは。それでもぐうぐう眠りこけるこいつらが羨ましくて、一人一発と言わず順番に殴り付けてやろうかと思ったが、寒くて手がかじかんでいるせいでそれは叶わなかった。暖房の余熱が残っている間に寝てしまえば良かったとか、マーモンを起こして幻術で部屋を南国に変えてやろうかとか色々考えてはみるものの、イタリアからの長時間のフライトで疲れ切った身体は、起き上がることすら許してくれない。仕方ないので、横で縮こまるようにして眠るカス鮫の髪を引っ張ってやった。

「おい、起きろカス」
「う゛お゛おい、どうしたぁ、ザンザス」
「何でもいいから相手をしろ、眠れねえ」

オレがそう言うと、カスはうーんと目を擦りながらもぞもぞ寝返りを打って(髪がくすぐってぇ)オレの方へ顔を向けた。途端、むぎゅっと声がしたかと思ったら、マーモンが奴の下敷きになっていた。ベルの方にいるのかと思っていたから多少驚いたが、可哀相だったので引きずり出してやり、再び眠り続けるマーモンを湯たんぽ代わりにしてみる。結構役に立つ。カスは不満そうにオレの顔を見ると愉しそうに笑った。

「何だ、カス鮫。かっ消すぞ」
「う゛お゛おい、人を叩き起こしといてそれはねえだろぉ。そういやあんた、枕変わると眠れないんだったなぁ」
「うるせえ。だから相手しろっつてんだ」

カスはオレをまじまじと見詰めると、目の下に出来た隈を指摘してまた笑う(もちろんオレはその面を殴り付けた)。

「ザンザス、あの女を信用する気か」
「フン、邪魔になったらいつでも殺れんだろ。あんなカス女」
「気にするまでもないってことかぁ。でもよボス、オレはあいつが何考えてるか全く分からないぜぇ」
「カスが、そんなもの気にしてる暇があったら、せいぜいリング取られないように剣の手入れでもしてろ」

オレは枕代わりに自分の腕を頭の下に入れると、薄暗い天井を見上げた。そういえば、何だってオレはあんな女の言いなりになっているんだ。今すぐにでもベッドを奪って、ヒーターもストーブもガンガン点ければいいものを。気に食わないと眉間の皺を深めれば、ゆっくりと眠気がオレを苛んだ。カスの何か反論するような声も、既にぼんやりとしか耳に入ってこない。行き道、眠れないまま12時間も空の旅を楽しむ羽目になったオレは、素直に重くなる瞼に従った。だからその後カスが「う゛お゛おい、もう眠いのかぁ。じゃあオレも寝るぞぉ」と言ったのを、オレは知らない。起きているときに言っていればもう一発殴ってやったのに、勿体無いことをした。

明日はあの女に、和食でも作らせようかな。





(2008/2/24)

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