小さな青春
□*小さな青春*第5弾
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第48話
□美月の初恋の真実□
「はぁ〜あ……」
“中学一年生”の美月は自室のベッドに寝転がり、年に似合わない大きなため息をついた。
しかし、それはどちらかと言うと嬉しいため息だ。
「雛形からの……チョコ……!」
そう、中一のバレンタインデー──
“義理”と決めつけヒナからチョコを受け取った美月は、可愛くラッピングされたハート形チョコを掲げた。
部屋に一人の美月はニヤつくのを防げないでいる。
「…でも…やっぱ義理か……。
本命は別にいる……。
あ゙ー!いいなぁ本命もらえるやつは!
いいなぁ雛形の本命チョコ!!」
そう叫ぶと、美月は全身の力を抜いてむなしい顔をした。
「…雛形…本命の相手にチョコ渡したのかな……。
気持ち伝えて…その相手と付き合って──」
想像すると、美月の心はズキズキ痛み、嫌悪感が生まれた。
─いつからだったろうか。
美月の中で、雛形比奈乃はアイドルだった。
かわいらしくて明るく、周囲の人気者。
それでいて、美月の前では顔を赤くしてお茶目な彼女。
いつの間にか、その存在は美月の心に欠かせないものになっていた─
─しかし美月は、他人にその気持ちを明かすことはなかった─
─美月にとっては初恋で、恐れに似たものがあったのだろう。
だからこそ、雛形比奈乃には優しく声をかけて、笑顔で接することを忘れなかった…
自分に興味を持ってほしいという一心だった─
「食べよっかなー…。
でもな…義理でも何でも、もう二度と、雛形からチョコもらえないかも……やっぱもったいなくて食べれない──」
そんなことで悩む美月は、妙に乙女っぽい。
しかし、悩み過ぎはよくなく……
「へー、うまそう」
「……えっ?」
突然現れた姉の青春(あおはる)にチョコを取られ…
「チョコになっちゃえー!
なーんちって」
漫画の魔人みたいな事を言って、ニヤニヤ顔の姉は大口を開けてチョコを食べた。
「あ!…あ…あぁぁ……」
「んー、…んん、うん!うまい!!
うまいなーこのチョコ!」
「うまいの!?
うまいのかよー!?
返せ…返せよ姉ちゃん!」
「えー、もう食べちったよ〜。
あ、コレやるよ、ハイっお姉様が作ったやつ」
姉の青春は美月の気持ちも知らず、ニシシと笑い自家製の不細工チョコを美月に手渡した。
だが、当然……
「こんなのいるかぁ!!」
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翌日──
「はぁ……」
登校した美月は、ひどく落ち込んだため息をついた。
「あ、ミツキくん」
ドキっとした。
雛形だ。
愛しの雛形比奈乃──
廊下で起きた突然のことで美月は驚いたが…
「(雛形だ…!笑顔笑顔っ!や、優しく…)
よっ、おはよう雛形」
更に美月は、昨日チョコをもらったことなど気にしていない様子を装った。
チョコをもらったことを喜ぶ態度を見せたなら、自分が雛形を好きなことが本人にバレるかもしれないからだ。
「おはよう─あ、あの…チョコレート、食べて…くれた?」
頬が赤くて愛らしくて、いじらしい雛形にトキメキながらも、美月はどう答えるべきか悩んだ……