小さな青春
□*小さな青春*第6弾
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第53話
□みつき□
『命には、恐ろしいほど別状ありません』
美月は病院で診てもらい、心配しきっていたヒナと凍矢家の家族たちは、医者の一言で安堵のため息を漏らした。
だが……
『ただ…非常に厄介なのですが、彼は記憶が─』
深刻そうに言う医者の言葉に、安堵のため息などすぐ失せた。
しかし、ヒナ達を包んだ絶望と喪失感はすぐ消える……
『記憶が─彼は記憶喪失になったわけではないのですが、記憶と認識能力に若干の異常が……』
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病院のベッドで美月が眠るそばで、ヒナと春夏がじっと美月を見つめている。
「兄、大丈夫だよね…」
「うん、大丈夫だよ」
…ヒナは罪悪感を感じていながらも、おかしな事にこんな時でも─
額に包帯を巻いて安らかな寝息を立てる美月の寝顔を世界一素敵だと思っていた。
「(美月は無事なんだ……記憶喪失にもならない。
本当によかった……でもごめんね美月─私のせいで……)」
「──ん…」
ヒナと春夏はすぐに反応した。
美月が目を覚ましたのだ。
まるで、ツラい朝に起きた時のような感じで欠伸する美月は、辺りを見回してボーっとした。
無事な様子の美月にヒナと春夏が安堵のため息をつき、安心したのもつかの間で……
「あぁ…みつきったら、ずいぶん寝ちゃってた?」
「「……え?」」
“みつき”という一人称と、いつもよりやや高く女性らしい話し方の美月に、ヒナと春夏は違和感を覚えた……
そして……
「あ、春夏ちゃん!おはよう──
あ!」
ヒナと美月の目が合った。
「ヒナったら!二本足で立てるようになったのね!お利口っ」
『…記憶喪失ではないのですが、おそらく記憶がゴチャマゼで何かテキトーによくわからない感じになってると思います。
この症状はしばらく続くだけだと思いますが……例えば、今の彼は自分を─“女性”だと誤認しています』
母親と青春が告げられた、医者からの言葉──
「…そんなことあんの?」