ファンタジー

□『神存在』
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 雨が降らなかった。
もう、一月近く、降っていない。

 収穫前の作物は、干からびてきて、二、三日のうちに雨が降らないと売り物にならないだろう。

 ……それは困るな。

 街一番の農家に長男として生まれたサンは頭を抱えながら、街の中心に向かって歩く。

 作物だけが収入原だから、このまましゃ家計がつぶれる。

 ただでさえ父さんが病気で治療費がかかるのに……。
都合よく奇跡が起こらないかな?

 そんなこと考えたって、奇跡なんて起こらないことはわかっている。

 実際のところサンは神だって信じていない。

しかし、もう神に頼むことしかする事はない。

 ――だからって、神に祈るために街の中心に有る遺跡に行けって……。
姉さんが行けばいいのに。

 街の外れから歩いて一刻。
農作業によって鍛えたれた足は疲れたりしないが……めんどくさい。

「ちくしょうっ」

 やけになって、サンはそばにあった木に蹴りを入れる。
それは自分の身長の五倍はゆうにある、巨大な木。

「イタッ」

 その次の瞬間サンは痛み出した部分を押さえて地面に座り込んだ。
蹴った足ではない、右目だ。
木の上から何か光ものが落ちてきたかと思うと右目に入ったのだ。

 ……っ。――何……なんだ?

 まばたきを切り返し、その何かを出そうとする。
痛みで涙が溢れ出た。とげが無数に入っているかのように、眼球を突き刺されるような痛み。そして、

「あ? ん?」

 痛みは初めから無かったかのように、突然消えた。

 あまり入っていた物が出た感じはしないのに痛みが消失せ、
何故か拍子抜けした気分になってしまう。

 ……まぁ、痛く無くなったんだから良いか。

 しかし、サンはクヨクヨ考えずそう結論づけた。
悩んだって時が過ぎていくだけで、意味がない。
そんなことよりサンは早く家に帰りたかった。

 足を早めてサンは遺跡に向かう。

 と言うか……「太陽を呼び寄せ、良い作物を育てられるように」
って意味を込めて「サン」と名付けられた奴が、
雨乞いしに行って意味が有るのか……? ないだろうな。

 内心、「次男のレインに行かせろっ」と思うのだが
……姉はレインに甘い。

 全く、理不尽だ。

 ちなみに、姉の名はリリーて、作物を育てる上で関係ある名前では無い。

「はぁ……」

 思わず出てくるため息を、サンは押さえることは出来なかった。
意味もないと思っていることをするのは、本当に骨が折れる。

 それで、帰っても雨か降らなかったら「ちゃんと祈って来なかったんでしょ?」とか、姉はからかうんだ。

「はぁ…………」

 ――しかし、そうこう思っている内も、サンは目的地にたどり着いた。

 そこは円形に開けた場所で、中心に大きな岩がある。
その岩は中身がくりぬかれ空洞になっており、中に水の神が居て祀られている。

 って、街の奴らは信じているが……いるのかよ?

 そんなことを考えながらも、サンはしぶしぶと、祈るために岩に近づく。

 だがな、祈ったて降るときは降るし、降らないときは降らな――

「いっ、イテェー」

 岩の前まで来たその瞬間、サンの右目が痛み出した。
さっき何かが入った右目が。

「い、イテテ……。出たんじゃなかったのかよっ」

 あまりの痛みに、右目だけ涙が溢れ出す。片目の視界が歪んだため、バランスを崩しサンはその場に座り込む。
――そして、左目で見た。

「っ? な、なんだ!?」

 岩が光り出したのを。
澄んだ水のような青色だ。

「……っ!!」

 その光が強くなるのに比例して、目の痛みも大きくなる。
右目は焼けるように熱くなり、流れ出る涙は地面に落ちると湯気を上げた。

 ……み、右目が……やけるっ!!

 地面にうずくまり、どうにかしようと目をこすり
――痛みは無くなった。

 な……なんな……んだよっ。

 息も絶え絶え、だが、状況を把握しようと、サンは首を上げる。
すると、遺跡の光が拳ほどの大きさとなり宙に浮いていた。

 さらに、もう一つの光も宙に浮いている。
――木を蹴ったときに見た輝きと同じ色の光が。

 ……?

 全く状況がつかめないサンはただただ右手を押さえて、首を傾げることしかできない。
いまだに息が荒く、足に力が入らないため地面に座り込んだまま。

 そして、そんなサンの頭上で二つの光は――合体した。

「へ……」

 ポカンと口を開けているサンの前で、それは空高くあがってゆき、そして、


「あ、雨!?」


 ポツリポツリと水の粒が降ってきて、開いた口に入る。
それは徐々に大きく多くなり、気が付くとサンはびしょぬれになっていた。

「な、なんなんだ〜」

 全身びしょぬれになってしまったサンは、空に向かって叫ぶ。
すっきりしない気持ちを出すように。

 何が起きたんだ? あれは神だったのか? 
だが、光は二つあったし……。
まさかっ、分離!? 分離してて雨を降らせることが出来なかった?
……そうか。そうだな。――って、ふげ〜。それじゃあ、俺の中に神がはいってたのかよ!!

 サンは思考を巡らせて色々考える。そして……家に向かった。

 そう、自分の考えで、右目をゾワッとさせながらも、家に向かって歩く。
あの場で考え続けていても、何かわかるわけじゃなさそうだし、ますます濡れて風邪を引くだけだから。

 ……今の出来事は姉さんたちに話さない方が良いか。

 話したら信じてもらえずに馬鹿にされることが目に見えている。

 なにせ、祈って来いと言った姉さんも、神を信じていないのだから。

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