ファンタジー

□『傭兵少女』
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「魔剣よ、我が手に来たれ」

 宙にそう呼びかけると、少女の手の中に剣が現れる。
それも、刃の部分が真っ白い輝きを放っている剣。――魔剣だ。

「私はおまえを倒す」

 少女は指さすように魔剣を相手に突きつける。
それに共鳴するかのように、魔剣の輝きが増した。

「グアァァァ〜〜〜〜」

 その先で相手が威嚇するように、大きな口を開く。

 真っ黒な鱗(ウロコ)で覆(おお)われたそいつは、トカゲのような姿をしていた。しかし、そいつはトカゲと違い尾には棘(トゲ)があり、口には鋭い牙が並んでいる。
さらに、足には太く長いかぎづめがあり、背にはコウモリのような羽が生えている。
そして何より、そいつの大きさはトカゲとは全く似つかない。

 ドシンッ、という音と共に地面が揺れ、ひび
割れた。

 そう、全長五メートルはゆうにある黒いドラゴンが、大きく足を踏みならしたのだ。

「おまえも戦う気のようだな」

 では、行くぞっ。
と少女は魔剣を構えてドラゴンに飛びかかる。

 十七歳ぐらいのその少女は同じ年代の子よりも背が高い方だろうが、ドラゴンの前では小さく見えるた。

 だが、少女はそんなことで立ち止まったりはしない。

「ガァァァ〜〜」

 ドラゴンが大きく口を開き、真っ赤な炎(ブレス)を吐き出す。

 そのストレートな攻撃に、少女は慌てることも怯むこともしない。

「氷よっ。冷たく堅く、我が身を守る壁となれっ」

 少女は呪文(ルーン)を唱えた。

 ドラゴンの炎(ブレス)が少女の魔法によって生み出された氷の壁にぶち当たる。

 ジュゥゥ〜〜〜と氷が昇華して水蒸気となり、視界を曇らせる。

「木の葉よっ。その身をとがらせ、敵に突き刺されっ」

 辺りが見えないのにがむしゃらに剣を振っても意味がない。
少女は再び、しかし今度は攻撃の、呪文を唱えた。

「グワァッッ〜〜〜」

 それが当たったのだろう。ドラゴンが暴れ出した。

「こんな攻撃で喚(わめ)くのかっ」

 「かっ」の部分で、少女は飛んできたドラゴンの尾を飛んでかわした。

「雷よっ。光の矢となり、敵に降り注げっ」

 空が一瞬光ったと思うと、いく千もの光が水蒸気を追い払い、ドラゴンに降り注ぐ。

「グガァァァ〜〜」

 ドラゴンがさらに激しく暴れ出した。もう、数分前までは地面が平らだったとは思えない。

「つまらん。バリアもはれないのか」

 そんなドラゴンに対して馬鹿にしたように、そして、ガッカリしたように少女は呟く。

「魔剣よ、輝けっ」

 少女の手の中にある魔剣がさらに輝きを増す。

「お前みたいな雑魚(ざこ)はさっさと倒すに
かぎる」

 そして少女はドラゴンに接近。
ひび割れた地面に足を取られることなく、素早く。

「ツタよ、強く長いその身で、敵の動きを封じろっ」

 頭上に振り下ろされてくる真っ白な鋭い爪を、少女は魔法で押さえる。

 そして、ドラゴンの腹の下へ。

「っ!」

 息を吐き出し、少女は無防備なドラゴンの腹に魔剣を振るった。

「ガァッ」

 体の他の部分に比べて柔らかい腹の鱗(ウロコ)をえぐられたドラゴンが短く唸る。

 トロいのがいけないんだよ。

 そんなドラゴンの下から少女は鼻で笑いながら飛び出す。

 さあ、このつまらない戦いを終わらせよう。


「炎よ、その体をドラゴンよりも熱く燃やし、敵を包み込めっ」

 未だ腹の痛みに呻く(うめく)ドラゴンに真っ赤な炎が覆い被さる。そして、

「とどめだっ」

 その首に、少女は容赦なく魔剣を振るった……。


「――終わりだ」

 ドラゴンが完全に動かなくなったのを見て、少女はつまらなそうに吐き捨てる。

「やっぱりこの種のドラゴンはこの程度か……」

 魔剣を一振りし、ドラゴンの血を落とした。

 そして、呪文を唱え魔剣を宙に消す。

「もっと強いヤツを探しに行くとするか」

 景気付けるように言い、少女はその場を背に、歩き出した……。

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