ヤンデレ

□『なみだ』
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 君は……僕を見てくれない。
僕がどんなに見つめても……。君は僕を……っ。

 だけど、でもっ、それなのにっ……君は他のヤツを見て笑っていた! 
僕にはけっして見せてくれない、心から幸せそうな笑顔を……っ。

 どうして? どうして? どうして僕を見て笑ってくれないの? ねえっ……。

 そんな君の姿を見ているだけで、僕の胸は締め付けられるように痛くなった……。
かきむしりたくなるような、いやむしろ取り出したくなるような痛み。それは僕を狂わせるかのように、痛み続ける。

 君に会いたいけど……僕に笑ってくれない君は見たくない。
……僕を見てくれない君を見ていると狂いそうだから。

 ――でも、今日は違う。

 僕は雨雲が広がった空を見上げた。
夕暮れまでまだ時間があるが、それらのせいであたりは薄暗い。

 そう、今日は僕じゃない奴を見ている君を見ても、僕は狂いそうにならなかった。

 だって。ここで、待ってれば……。

 ここは学校の敷地内にある体育倉庫の裏。
体育倉庫と言ってももう使われてない上、敷地の北端にあるため、普通なら誰も来ない。

 だが、今日はまもなくここにもう一人来る。来ることを約束してくれた。――そう、君が。

 ここで待っていれば君が来るっ!!

 幼い顔の口元に浮かんだ笑みを、まだ肌寒い風がなでた。

 空は雨が今にも降りそうである。しかし、僕の心は晴れていた。

 だって、君が僕を見てここに来ると約束してくれたんだっ。君が僕のためだけに会ってくれるっ!!

 僕は喜びを隠せず、その場で跳ねる。他の奴に比べて小さい背を力を込めて高く飛ばす。
ものが入って重くなったブレザー右のポケットだけ、ワンテンポ遅れた動きをした。

 君が……来るっ!!
 
 と、君のパッチリした目が体育倉庫の影から覗く。そして、君は真っ直ぐ僕の方へ歩いてきた。

 あぁ、君の唇、小さくて、ビンク色で……かわいいなぁ。柔らかい……かな?

 僕は全身が震えるのを感じた。

 君が素敵な口を開く。

「雪之君話ってな――」

 そして、僕は体のそこから湧き上がる衝動を押さえきれなかった。
普段なら、押さえられるだろうが、なにせここは誰も見ていない。

 そう、君と僕だけ……。だから……

 キスをした。僕の名前を読んでくれた君に、僕だけを見ている君に、僕はキスをしたのだ。
ただのキスじゃない、君の唇噛みつき、痛みで空いたそれに僕の舌を差し込む。あついキスだ。だ液(君)が僕に流れ込む。

 あぁ……君が僕に入り込む。僕と………君が混ざり合う。これで、君は……

「――っ。な、なにするのよっ」

 突然君は僕を振り払った。
振り払われた僕は体制を崩し体育倉庫に肩をぶつけ、顔をしかめる。――いや、痛みで顔をしかめたんじゃない。

「僕じゃ……ダメ?」

「あ、あたりまえじゃないっ……ひどい……急にするなんて……。私、初めてだしっ。……そ、それに、」

 はじめて……。はははっ。

 僕は唇が歪むのを隠すことは出来なかった。

 そうかっ。君はまだ汚れていなかった。僕が君を汚したんだ。それならやっぱり、君は僕の――

「第一、私、雪之君のこと嫌いだしっ」

 えっ……。き……嫌い……?

 君の一言で、僕の表情が思考が心臓が止まった。

 ど、どういうこと……。

 好きとは思ってもらえてない覚悟は出来ていたけど……まさか、そんなっ。

 僕は訴えかけるように目を丸くして君を見る。

 しかし、君は目をそらした。

「だって、いつも黙ってこっちみてるの気持ちワルいの。話しかけたいなら、話せば良いのに。まぁ、こんなことをしたから、もう話す気はきは無いけど」
「だ、ダメだ……」

 僕と話してくれない……。

 目の前が暗くなる。そして、無意識にポケットに手を突っ込みながら、君に飛びついた。

 話しかけてくれないなら、また胸が痛くなるじゃないかっ。
せっかく、今日ここで話をしたのに、また見てるだけ……なんて……。

「な、なに!?」
「動くなっ。動いたら……殺すよ」

 君の保存首筋にナイフを突きつけた。その拍子に赤い線が入る。

 君が僕と話してくれないなんて許さないっ。
だって、少しでも仲良くなるなめに、君をここに呼んだんだからっ。僕を見てくれない君に、僕が狂わないように……。

「そ……そんなものっ、ど、どかしてよっ」
「イヤだよ。君が僕を好きになってくれなきゃ。―いや君が僕のものになってくれなきゃ」
「そんなの、イヤよっ。す、好きになんかなれないし、ましては雪之君のものなんかにならないっ」
「どうして?」
「さっきも言ったじゃない……。私は雪之君のこと好きでも何でもないのよっ。――それに」

 怯えていたはずの君の目が、不意にどこか遠くを見る。


「私……竜也君のことが好きなの」


 宙に赤い血が飛び散った。狂いそうなほど真っ赤な血が次々と吹き出しあたりに生臭い匂いが充満する。

 そして、驚いた表情を浮かべた君から力が抜ける。僕が手を離すと、君は地面に座り込んだ。

 許さないっ。僕以外のヤツを見るなんてっ!! 僕以外す……好きになるなんてっ!!許さないっ。許さないっ。絶対許さないっ!!

 僕は舌を出して口元をなめる。
――僕に付いた君の血を。

 そしてかがみ込み、キレイになった口で君にキスをする。今度は君は暴れなかった。

 それだけじゃない。僕が何をしても、君は抵抗しなかった。

 僕は……君を思いのままに……操るんだっ。もう……君は僕以外を……見ない。
……好きにならないっ。――そう、君は……僕のものぉ。

「ははっ。ははははっ」

 僕は空に向かって笑った。腹のそこから次々とあふれ出てくる。

 灰色の空から、雨粒が落ちてくる。

「君は……僕のものだぁ!!!!」

 雨粒が頬伝う。いや、これは雨粒じゃな……

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