恋愛

□『支え合っていこう』
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「あかり、いつまで寝ているの? そろそろ行かないと間に合わないわよ」

 カーテンが開けられ朝日がまぶたごしに突き刺さる。

「行くって、どこに?」

 今日の予定をお母さんに話した覚えはない。

「空港よ」

 空港? あ……今日はケンタがイタリアに行くんだ。
でも、見送りは行かない――って

「お母さんっ、何で知ってるの?」
「あなたがケンタくんと付き合ってることも、ケンタくんが今日留学先に行ってしまうことも知ってるわよ」

 だってあなたのお母さんなんだから。お母さんは胸をそらし宣言した。
朝日を背中に浴び神々しく輝いている。

 だが、あかりにはそんな光景に突っ込みを入れる余裕はない。

「で、でも……お母さんは男嫌いで、私が男の子と付き合ったら怒るんじゃ……」
「ん? 私がいつ男嫌いって言ったかしら?」

 お母さんは本当にわからないと言うように首を傾げた。

 あかりのあたまは毛糸のようにこんがらがる。

「えっ、だって、お父さんは家族の事なんて気にしないで仕事のことばっかで……
それで別れて、男なんて、自分のことしか考えられないやつだって……」
「あぁ、そんなこと言ったわね……」
「そんなこと言ったわねって……」

 言ったこと忘れてたの?

 とても、忘れられるような内容ではないだろう。

「ごめんね、あかり」

 唐突にお母さんは謝った。頭を九十度、さげて。

「へぇ?」
「さっきあかりが繰り返したせりふ、私の本心出はないのよ。ただお父さんと別れて寂しくて、背の埋め合わせに、ぐちっちゃたの」
「?」
「私はお父さんのこと嫌いじゃないわ。お父さんが仕事を頑張ってたのは私たちのため。けど、がんばりすぎて、私たちと過ごす時間がなくなっちゃたの。
がんばりすぎ無くていいから、もっと家族とすごそうって言ったけど……不器用な人ね。それが出来なかったの。
そのことで喧嘩が日に日に増えて……」

 それで離婚したの……。

 当時幼かったあかりはお父さんにもう会えないと言うことを理解するのが精一杯で、
離婚なんて言葉知らないで、そんな理由なんて全然気にとめる余裕はなかった。

「だから、別に私は男が嫌いじゃないし、あなたが誰かと付き合っても文句はつけないわよ」
「う、うん」

 突然の話に頭が付いていかない。
自分の中の常識をひっくり返されたのだ、あかりは考える時間がほしかった。

 しかし、お母さんは、待ってくれない。

「ほら、はやくしたくしていきなさい」
「で、でもケンタは昨日まで自分が留学することを隠してたのよっ。私に悲しい思いをさせたく無いって……。支え合っていこうって言ったのにっ」

 私は必要とされていなかった。

「そうねぇ……。きっと、ケンタくんもお父さんと一緒なのよ」
「え?」
「不器用なの。でも、お父さんとは別の不器用さね」
「どういうこと?」
「ケンタ君はあかりに悲しい思いをさせたくなくて、今まで言わなかったんでしょ?」
「うん。だけど支え合っていこうって言ったんだからそんな気遣いいらないよっ」
「だから、そこが不器用だって言ってるのよ。相手のためを思ったけど逆こうかだった。逆こうかだって気付いても良さそうなのに……」
「気づかないなんて驚きだよ!」
「そして、気づかされた時、悲しい顔をしていたでしょう?」
「うん……」
「それは、ケンタくんがあなたのためを思ってしてくれた証拠だと思うわ。だから、あとはあなたがそれを受け止めるか
どうか。
――私はお父さんの不器用さを受け止めることが出来なかった。それを今後悔してるわ」

 ……確かに、ケンタは私のためを思ってそうしてくれた。
それはケンタからしっかり伝わってきた。

 あかりは晴れ渡った空を見上げる。
私はそのやり方が気に入らなくて、そして、気ずついっちゃったけど、それは事実。
私のことを思ってくれたケンタを、わたしは今、見捨てようとしている。

 あかりは寝起きでボサボサの頭を力任せに横に振った。

 それはダメだ。

「私行く」

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