Maine 2

□sweet kiss
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それから約1時間後――――――



やっと部屋の主が帰って来た。



「……はぁ……、疲れた……」



どんよりとした重い口調で呟くと、ティキは部屋のコート掛けに冬物の黒いコートを脱いで掛けた。



疲労のせいか、あくびが零れる。



『少し眠るか……』



そう思いベッドのある部屋へと向かう。



ここまでは、いつもとなんら変わらない彼の行動だった。



カチャリ。ドアノブを掴んで戸を開けると……。



「…………―――」



……すぐに、ベッドの上で静かな寝息を立てている人影が目に入った。



ラビは、ティキが帰って来たことにも気づかずに眠っている。



『来てたのか……』



思わぬ先客に多少驚きはしたが、なんだか可笑しくなってティキはふっと笑った。



音を立てぬよう静かに戸を閉めて、そっと近づく。



『毛布も着ないで、寒くないのか……?』



顔を覗き込むが、寒そうな様子も見せずに眠っている。



その顔は安らかで、幸せそうに見えた。



「……可愛い寝顔、だな……」



微笑ましくなって、ティキは赤い髪を優しく撫でた。



「……ぅ……ぅんん……」



ラビが眠たそうな声を上げる。そして軽く身じろぎした後、ゆっくり目を開けた。



「……、……あれ……?ティキ………?」



やっと夢から目覚めたラビは、ティキの顔を見上げてぼんやりとした声で呟いた。



その様子に、ちょっと笑ってティキが答える。



「ただいま。ずっと待っててくれたのか?」



「……うん、途中までは。でも……俺、いつの間に寝てたんだろ……」



待ちくたびれて、知らぬ間に眠りに堕ちていたらしい。



ティキはそれに気がついて、苦笑しながら言った。



「ごめんな、遅くなって。社交パーティー、思ったほど長引いちまってさ」



「おかえりさ。パーティーかぁ……、お疲れ様さ」



ラビは起き上がると、にっこり笑ってティキにそう言った。



次に、大きなあくびを漏らして目をこする。



「ん〜……、せっかく待ってたのに寝ちまうなんて、……不覚さぁ」



「何言ってんだ、ラビのせいじゃないだろ?……待っててくれて、ありがとな」



ティキは優しく微笑みかけて、ラビの頭を撫でた。



途端にラビは嬉しそうに目を細める。



その二人の姿は、恋人同士のようでもあり、仲の良い親子にも見えた。

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