Maine 2

□story 4
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ティキが戻って来たのは、夕方のもう空が暗くなり始めている頃だった。



もっと早く帰って来るはずが、仕事の都合でそういう訳にいかなくなってしまったのだ。



それでも、帰り道は大分急いだせいかいつもよりも早く到着した。



厚い上着を脱ぐと、そのまますぐにラビの居る部屋へと向かう。



……あいつ、怒ってるかな……――――――



なるべく早く帰ると言ったのは自分だし、ラビが怒っていても仕方のない事だ。



そう自分を宥めつつ、それでも少し憂鬱な気分になる。



ティキは一つ息をついてから、そっと部屋の戸を開けた。



キィ……。



室内は灯りも付いておらず薄暗い。



ラビはティキが帰って来たのにも気づかずに眠っているようだった。



部屋は静まり返っていて、ラビの微かな寝息しか聞こえない。



ティキは音を立てないよう用心しながら部屋の戸を閉めた。



そして、ゆっくりと、眠っているラビへ歩み寄る。



「………………」



何も言わずに、ベッドに寄り添うようにして床に腰掛け、ティキはそっとため息をついた。



その顔は自嘲的な苦笑を浮かべている。



正直な所、ラビに怒られるのを少し期待していた。



それは、自分が今彼にとってどれだけ傍に居て欲しい存在なのか、知ることが出来ると思ったからだった。



「でもまあ、眠ってくれてて良かったかもな……」



機嫌を損なわれるのは、やはり良いものではない。



時として、その二人の関係をも壊しかねない事態となる場合もあるのだ。



ティキの場合、相手の機嫌を取るのは得意な方だが。



「………ん………ティキぃ………」



ふと、微かにラビがそう呟いた。



起きたのかと思って顔を覗き込むが、どうやらまた寝言だったようだ。



相変わらずラビは、気持ち良さそうにすやすやと眠っている。



……可愛い寝顔、だな――――――



眺めながら、ティキは内心で呟く。



胸の中に、じんわりと愛おしいという感情が込み上げてくる。



それと共に、この愛らしい顔を自分の手でめちゃくちゃにしてやりたいという、黒く狂気に満ちた感情も……。

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