Maine 2
□A recollection
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「………………!」
三人の内の一人。黒髪で眼鏡をしている男と、目が合った。
一瞬の出来事の中で、彼の口元が微かに微笑んだのが分かった。
眼鏡の奥の、切れ長で、琥珀色をした綺麗な瞳……。
何処か優艶なその視線に、ドクンと鼓動が大きく高鳴った。
変な焦りを感じ、俺はすぐに彼から目を逸らした。
目が合ったのなんかただの偶然で、特に意味など無い。
もしかしたら、俺のこの赤い髪が物珍しくて目に留まっただけかもしれない。
そう思うものの、鼓動は早いままだ。
今まで感じたことのない感情に、ただ困惑する。
……なんだ……、この感じ……――――――
驚きや疑問ではない。なんだか変な気持ちで、心の中がモヤモヤとしている。
そっ……と、もう一度彼の方へ目を向けてみるが、ただ笑いながら手札を見ているだけだった。
「どうかしたであるか、ラビ」
様子に気がついたクロウリーが、心配げに声をかけてくれる。
「いや……、なんでもないさ!」
苦笑してそう答えたものの、気分はソワソワしていて落ち着かない。
その後、アレンが圧勝して汽車が次の停車駅に着くまで、彼と目が合うことはなかった。
真っ白な白煙を吹き出して、汽車はキリレンコ≠ニいう鉱山前に停車した。
さっきの男達は、この駅で降りるらしい。
結局アレンとの勝負にぼろ負けし、三人共さっきのクロウリーと同じくパンツ一丁の姿だ。
この季節にあの格好は寒そうだな……と思う。
最終的に、彼らの衣服と持ち物は心優しいアレンによって持ち主に返された。
「いやぁ、助かった。実は今日から、この近くの鉱山で外働きでねぇ」
黒髪の男が、相変わらず楽しげに笑いながら言う。
クロウリーに勝負を吹っ掛けた三人と、さっき俺と目が合った子供は、彼が言うには孤児の流れ者というやつらしい。
……こんな境遇の人間の中にも、あんな綺麗な瞳をした奴が居るんだな……――――――
品があって、それでいて挑発的にも見えたあの視線。
彼がなぜ俺のことを見ていたのか、何故微笑んだのかは分からない。
きっと、特別な意味は無いのだろうが、なんとなく腑に落ちない。
もう逢うことはないと思い、ここで別れる前に彼に直接理由を聞きたかった。
でないと、ずっと気にかかったままのような気がしたからだ。
どうしてだろう。初めて逢った奴のことが、ここまで気になるなんて……――――――
今までたくさんの場所を周ってきたが、こんな経験はしたことがなかった。