Maine 2
□A recollection
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もしかしたら、無意識の内に気にしないようにしていたのかもしれない。
その場所の人間達のことが気になり始めても、その頃にはもう違う場所へ移動し始めているという訳で……。
窓辺で話しているアレン達を横目で見ながら考えていると、発車を知らせる汽笛が鳴った。
ガタゴトと重い音を立てながら、汽車はすぐに動き出す。
そうか。……もう二度目は無いんだ……――――――
改めて気づいた時、俺は思わず席から立ち上がっていた。
窓辺に歩み寄り、開いている窓から顔を出す。
汽車はすでに、ホームから走り去ろうとしていた。
が……、その時。
ホームに留まっている彼の前から通り過ぎようとした時。
ほんの一瞬、彼は俺の方に目を向けて、目配せをした。
その表情はなんだか艶めいていて、まるで俺を誘惑しているように見えた。
どういうことかとその場で固まる俺の横で、アレンが彼の投げたトランプの束を受け取ったのが目に入った。
「………っ………」
一歩遅く、胸の鼓動が早くなり始める。
一体なんなのだろう。彼の俺に対する、あの意味深な仕草は……。
さっきの視線や今の目配せ。
何か特別な意味があるとでも言うのか……。
「あれっ、どうしたんですかラビ?顔が赤いですよ?」
「えっ………」
アレンに指摘されて、初めて頬が熱を持っていることに気がつく。
「大丈夫ですか?もしかして酔いました?」
「いや……、えっと……」
まさか本当の事など言えない。言った所で、俺以外の人間が彼のあの一瞬の仕草に気がついているとも思えない。
彼が俺にしか分からないようにあんなことを仕掛けたということはすぐにわかった。
だから、他の人間には話してもしょうがない。
「……はは。ちょっと、酔ったかな」
「汽車が動いてるのにいきなり立つからですよ。何か気になることでもあったんですか?」
「まあな。でも、……俺の勘違いだったみたいさ」
笑いかけながらなんとかごまかす。
さっきの目配せで、あの視線は偶然でも勘違いでもないということが明白になった。
だけど、そんなことをする理由がやっぱり分からない。
男の彼が、ほんの少し関わりがあっただけの男の俺に一目惚れしたとでも言うのか。