Maine 2

□Your next door
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疲れているのなら、その疲れを癒してあげたい。



悩みがあるのなら、隣で寄り添って一緒に考えてあげたい。



何か少しでも支えになりたい。





―――そんな気持ちを教えてくれたのは、あなたでした。








「Your next door」








カチッと音を立てて、ランプのスイッチを入れると、部屋の中はすぐに柔らかい灯りに包まれた。



季節はもうすぐ春になろうとしている。冬場より日は長くなった方だが、夕方の5時を過ぎた頃には室内は薄暗い闇に閉ざされる。



この時間帯には、帰りを急いで歩く人の姿も見受けられた。きっと家では、大切な人が帰りを待っているのだろう。




そう考えると、自然と心が穏やかになった。



「……仕事してる人って、大変なんだなぁ……」



行き交う人影を窓越しに見下ろしながら、ラビはふと呟いた。



その言葉は、今仕事を終えて家路に着いている人達へ向けられたものでもあるし、ラビが今まさに帰りを待っている彼≠ヨの労りの言葉でもあった。



いつもならこの位の時間に帰って来るのだが、今日は仕事が長引いているのか、まだ姿を見せない。



一応貴族≠ニしての顔を持つ彼は、社交場で階級が高い人間達と接し、相手をするのを仕事の一つとしていた。



生まれながらの美形を持つ彼には、周りの対応や態度も良い。ただ外見が良いだけでなく、彼は性格も良く他人への気配りや気遣いのできる人だった。



そんな所に惚れ込んだ女性達からの縁談の話は後を絶たないという。



縁談なんて、自分には縁≠フない話だとラビは思った。



自分と彼とでは、階級がまるで違う。一応黒の教団≠ニいう特別な所に所属してはいるが、あくまで階級としては一般市民に過ぎない。



貴族として生き、それなりの待遇を受けられる彼をラビは少しだけ羨ましく感じている。



……それと同時に、自分が思っているのとは違う生き方をしなくてはいけない彼のことを憐れだと思った。



彼の望みは、貴族として生きることではなくて、ただ普通に生きて気の合う仲間と平凡な暮らしをすることだと、ラビは知っている。痛いほど、その気持ちは分かる。



彼には二つの暮らしがあり、その間で気持ちが揺れているということも知っていた。



どちらの人生も彼には必要であり、片方だけを選ぶというのは難しいのだ。



初めて彼のそんな心情を悟った時は、人知れず切ない気持ちになった。



「ほんと、大変さ……生きるのって」



ラビはイスの背もたれに両腕を乗せて、深いため息をついた。

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