Maine 2
□Your next door
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こうしてこの部屋で彼の帰りを待ち始めて、そろそろ6時間になる。
黙って部屋の中で過ごしているだけでも、空腹にはなる。きゅるるると、ラビの腹の虫が切なく啼く音がした。
「……そういえばあいつ、晩飯はどうすんだろ」
時刻は6時をまわって、もうすぐ晩飯を食べる時間だ。
町の家々には明かりが灯り、それぞれの家族が今夜食べる夕食の匂いがしてきそうだ。
この分では、きっと何処かで食べて帰って来るだろう。ラビはそう考えた。
「じゃ、キッチンにある物で何か作るか」
言いながら立ち上がり、数歩しか距離もないキッチンへと向かう。
部屋に入って左手には調理スペース、その少し離れた右手には二人用のテーブルとイスがある。
彼と一緒に食事をする時は、いつもここで他愛無い会話をしながら料理を食べた。
ラビは入口から見て奥の席、彼はその向かいの席に座る。いつしか、何も言わずとも二人の席はそう決まっていた。
「……今日はこっちに座って食べようかな」
いつも彼が座っているイスにそっと触れて、ラビは少しだけ寂しそうな微笑を浮かべた。
自分の席へ着いても、いつものように向かいで笑って話しかけてくれる人が、今日は居ない。
それならば、彼がこの席で普段眺めている景色を見るのも、たまには良いかと思った。
どっちみち、今は自分一人しか居ないのだ。何をしても咎められることはない。
「早く、……帰って来ないかなぁ……」
一人ぼっちの一室で、ラビが寂しそうに呟いた。
適当に食事を済ませ、後片付けを終えた頃には、時計の針が9時を示していた。
「今日はやけに遅いさぁ……」
ラビは読んでいた本から顔を上げ、時刻を確認するとため息混じりにそう言った。
ここまで帰りが遅いことなど、今までには無かった。そのせいか、時間が経つにつれて心の中に不安≠ニいう感情が芽生え始めていった。
「何かあった訳じゃないよな……?」
そう考えると、居ても経ってもいられなくなる。
と―――、廊下の方から何やら物音が聞こえてきた。
耳を澄ましてよく聞くと、誰かが玄関の鍵を開けて中へ入ってくる音のようだった。
やっと彼が帰宅したようだ。
それを認識した途端に、さっきまでの不安の感情は無くなり、安堵と嬉しさが体の底から込み上がってきた。
読みかけの本を、半ば放るようにその場に置くと、ラビはすぐに部屋から廊下に出た。
少し先に彼が居る。丁度こちらに背を向けて、靴を脱いでいる所だった。
足音を忍ばせて、その大きな背中にゆっくりと近付いていく。