Maine 2
□月夜に兎は狼と…
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「なあティキ?今日は何の日か知ってるさ?」
窓から月明かりが差し込む薄暗い一室で、唐突にラビが問いかけた。
もちろんその問いの答えを知らないティキは、首をかしげて言う。
「今日?いや……、知らないな?」
「まぁそれはそうだろうな。きっとこの街では、知ってる人の方が少ないさ」
苦笑してうなずいた後でラビは物知り顔で話し出す。
「今日は、日本って国の風習で十五夜≠チていう日なんさ。十五夜の晩は月見≠して、果物とか団子を月に供えたりするらしいぞ。面白いならわしだよな」
何処か楽しげに説明するラビを見つめながら、ティキは「へぇ」と呟いた。
「面白そうなのはいいけど……、一体なんだって月に供え物なんかするんだ?」
「さあな?月に居るって言われてる兎の為にでも供えてんのかな?」
ラビが笑いながら言った冗談に、何故かティキが反応を示した。
何かに興味を持ったようにラビを呼び問いかける。
「なぁラビ、月には兎が居るのか?」
「ん?ああ、なんかそう言われてるらしいけど……、大方、月の表面の模様がたまたま兎の形みたく見えるってだけのことだと思うさ」
「……へぇ」
一言そう呟くと、ティキは口を閉ざした。口元には微かな笑み。
……何かを企んでいるような顔だ。
「今夜は丁度晴れてるし、次の兎もはっきり見えるんじゃねぇかな――――――」
期待するように窓の外を見ながら発せられたラビの言葉は、唐突に遮られた。
あまりに突然で何があったのか分からないが、目の前にあるのがティキの顔と天井だということは、後ろのベッドに押し倒されたらしい。