Maine 2
□snow kiss
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大切な人と過ごす 大切な時間。
温かくて、特別で、砂糖菓子のように甘く優しく……。
かけがえのないその一時は
雪が溶けるように 一瞬でした。
「snow kiss」
「デート?今度の土曜日に……?」
右手に受話器を持ち、耳にあてがった格好で反復する。
その声はあまりにも間が抜けていて、すぐに受話器の向こうから可笑しそうな笑い声が聞こえてきた。
「そ、デート。俺、今仕事でドイツにいるんだけど、丁度クリスマスシーズンだからか、なんかでっけぇ祭りみたいなのやってるんだ。楽しそうだから、ラビと一緒に見に行こうかと思って」
「あっ、それ多分クリスマス・マーケット≠チてやつさ。毎年、色んな所でやってるみたい」
クリスマスにちなんだ料理や雑貨、その地域の伝統的な民芸品などが売られる大規模なイベントで、11月の終わり頃に開催され、たくさんの人が訪れる。
……と、ラビは前に何かの本で読んだことを電話の相手に伝えた。
すると「へぇ」と感心したような呟きが返ってきた。
「よく知ってるな、さすがラビだ」
「……別に、本で読んだのを覚えてただけさ」
「覚えてられるのがすごいよ。俺だったら、すぐに忘れちまうからさ」
「ティキは忘れるの早過ぎなんさ」
笑いながら突っ込んだ後、ラビは自らがティキと呼んだ相手に言う。
「良いさ。今度の土曜日だな?時間は?」
その日は今日から4日後だ。予定はまだ分からないが、なんとしてでもその一日だけは確保しようとラビは心に誓った。
待ち合わせの時間は、二人で少し考えた後午後4時に決めた。
「分かった。じゃあそれまでにそっち行くさ。……うん、うん……じゃあ土曜日な」
それまでに風邪引くなよ?という捨て台詞を残し、ラビは電話を切った。
一つだけ息を吐くとそのまま肌寒い廊下を歩き出す。
季節はもう12月半ば。初雪もとうに済ませ、本格的に寒くなり出す時期だ。