12/28の日記

06:09
2/ジョセフ修行中の柱二人
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 雨が嫌いだと、そいつは言った。正確には天気の悪い日が嫌いらしい。空は黒く重く染まり日の光を許さない。それが嫌いなのだ。

「……俺たちが大腕降って昼間に外を歩ける天気じゃあねーか」

「気に食わんな」

 私に相応しくない。

 どこまでも勝手で横暴な言葉だった。けれどこいつなら言ってもいいような気がするのだから、全く容姿がいい奴はズルいものだ。

 見上げれば丸い月が一つ、常闇の中に浮かんでいる。カーズが見つけてきた隠れ家はなかなかよかった。廃墟と化していたらしいが窓や扉はしっかりとしていて、閉めきれば太陽の光を遮断してくれる。広さも申し分ない。書庫だった部屋には様々な本も残されていた。

 しかし決め手はいまいるバルコニーらしい。ここからはスイスの山々と街を眺めることができる。カーズが今夜俺をここに呼び出したのもそれを自慢したかったからだ。どこのガキだと思ったが、ああそういえばこいつは昔からこうだったとすぐに考え直す。地上に憧れを抱いているカーズらしいじゃあないか。

「だったら天候を操作する能力でも手に入れるか?赤石があれば出来んことじゃあない」

「私は超能力者になりたいわけではない。それに自分の思い通りにならないというのも、またおもしろいものだ」

「そんなものか。天才の感覚はよくわかんねーよ」

「ふふ、そうか。そうだな……お前はそれでいい。私の全てを理解したお前ほどつまらんものはない。どうか変わってくれるなよ」

「姫の望むままに」

 カーズの右手をとると、そのまま甲にキスを落とす。さっき読んでいた本の真似なのだが、どうやらお気に召したらしい。もう一度、と頬を撫でられる。まったく我が儘に育ったものだ。

 月の光に照らされる長い指は、汚れなき少女よりも白かった。指だけじゃあない。こいつの体はどこも白くて美しい。白磁のような肌、なんてありふれた表現だが、しかしそれがぴったりだと思う。

「ああエシディシ……私はお前が好きだよ。大好きだ。叶うならば全てを捨ててお前と生きたい。太陽だっていらない。お前がいれば私は」

「そっから先は言うなよカーズ。俺はがむしゃらに夢を追うお前についていくと決めたんだ。何を捨ててもいいが、夢だけは捨てるな」

 カーズが薄く笑い、漆喰の髪がさらりと体を撫でて落ちていく。白い肌とは反対の美しさをもつ、艶やかで長い髪。暗い地下では一生気づけなかっただろう。

 白い肌、長い髪。俺のことを好きだという唇。鍛えられ無駄なく引き締まった体。そして貪欲なまでの強い意志。全てが俺と違う。こいつは俺の上をいく。

 ふっと光が消えた。雲が月を隠し、闇を一層濃いものにする。カーズは眉をひそめると部屋の中へ戻っていった。思い通りにならないことがおもしろいと言ったのは誰だったか。

 バルコニーから見えるのは地上の世界だ。幾千もの光が視界を満たす。様々な光がひしめき合い、まるでこの世に闇などないと歌っているようだ。

「……なーに考えてるんだ、俺は」

 しかしその世界を美しいと感じることは、ありえない話なのだ。



完。
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たまには真面目な柱を…!
カーズ様はエシディシが好きで、でもエシディシは好きよりも高尚な感情を抱いていると信じてます。

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