月桜鬼 第二部

□未来への決断
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修羅と化したいのりと藤堂が加わり、今まで劣勢であった原田達に覇気が蘇った。

佩刀していなかったいのりは、仰向けに倒れていた男の長刀を掛け抜け様に抜き取り、
目前に居た羅刹を斬り捨てる。

いのりの横合いから躍りかかった羅刹を、
原田の槍が貫き、永倉の放った一閃が首を斬り飛ばす。

永倉の背後から襲いかかる羅刹に、不知火が銃弾を撃ち込み、崩れた所を藤堂が懐に入り込み刀で貫く。

申し合わせた様な連携だった。
少しずつだが確実に、羅刹は数を減らしていく。

人としての心を持っている羅刹が居たのか、いのり達の気迫と力量に恐れを成し、
一人、また一人と群れから離脱して逃げ出そうとした。

「ふん・・・・お前ら駒が、何処へ逃げようというのだ」

冷酷な一言と共に、五百目(いそのめ)と呼ばれていた鬼が白刃を閃かせた。
鋭い剣光と共に羅刹が肉片と化し、地に平伏す。
鬼の惨忍さに薄ら寒さを覚えたが、お陰で羅刹の数が減り、勢力が拮抗(きっこう)して来た。

「このままならいける!!」

藤堂がそう感じた時だった。
今まで傍観者となっていた五百目が動いた。

無言で跳躍すると、いのりの側で刀を振るっていた藤堂のすぐ脇に降り立ち、
轟音を纏(まと)わせた重く鋭い蹴りを、藤堂の胸元へ叩き付けた。
反応すら出来ず後方へ吹き飛び、けたたましい音と共に、藤堂の体は家屋(かおく)の壁に半ば減(め)り込んで崩れた。

「平助さんっ・・・・!!!」

いのりの悲鳴が上がり、原田達が一斉に振り返る。

藤堂の元へ駆け寄ろうとしたいのりの腕を、五百目が無造作に掴(つか)み捻(ひね)り上げた。
骨が折れそうになる程の激痛が、いのりの腕に走る。
いのりを羽交い締めにした五百目は、じりじりと戦線から後退していく。

「お前には一緒に来てもらおう・・・・・」

必死に抵抗するが、五百目の力は完全にいのりの動きを封じていた。
いのりを盾に取られ、動けなくなった原田達とは対象に、
不知火は舌打ちしながらも、銃口をいのりに向け引き金を引いた。

銃声を轟かせながら、銃弾は夜空の闇に消えていく。

「てめぇ!!邪魔すんな!!」

「何いのりを撃とうとしてんだよ!!」

不知火の腕を抱え込んだ原田が、激しい剣幕で怒鳴った。

「あいつを連れて行かせる訳にはいかねぇんだよ!!」

「だからって・・・・・!!」

「お前ら!!いいからこの状況を何とかしろよ!!」

原田達を襲う羅刹の攻撃を何とか受け止めながら、永倉も声を荒げる。

内輪揉めを始めた敵に侮蔑の視線を送っていた五百目は、
無言でいのりを連れて去ろうとした瞬間、黒い影が二人の間に割って入った。

銀の月の様な剣光が閃き、いのりの体は鬼から解放された。
切り飛ばされた鬼の腕が宙を舞い、青い炎を上げて地に落ちる。

「斎藤さん!!」

「すまない・・・・遅れた」

まるで痛覚が無いかのように、腕を切り取られた五百目は、傷を物ともせず静かに斎藤を睨む。

「斎藤!!」

新たに加わった仲間の姿に、永倉から歓喜の声が上がる。

「いのり・・・・平助を頼む」

短くそう言うと、斎藤は片腕となった鬼に斬り掛かった。
その隙にいのりは五百目の脇をすり抜け、藤堂の側に走り込んだ。

藤堂の目は焦点が合っておらず、体も骨を砕かれたのか、変に曲がって痙攣している。
大量の血が口に溜まっているのを見て、いのりは慌てて身を起こさせ、血を吐かせる。

「平助さん!!平助さん!・・・・しっかりしてください!しっかり・・・・!!」

そう言いつつ、いのりは藤堂の体が冷たくなっていくのを感じた。

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