月桜鬼 第二部

□愛すべき鬼達
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天満屋事件2からの続き

鬼の里の端にある離れの棟に、雪村父娘、そして藤堂と山南が暮らしている。

オズワルドの屋敷から救出された千鶴は、初めの頃はこの奇妙な共同生活に戸惑っていたが、
藤堂の気兼ねのない明るさに、どんどん心を開いていった。

「・・・・ねぇ、平助君。これ、どうかな?」

千鶴が出来上がった煮物の味見をしてもらおうと、藤堂に声をかける。
藤堂がひょいと里芋を掴んで口に放り込むと、満面の笑みで誉め称えた。

「・・・・・・・うん、旨い!!千鶴は料理が上手だなぁ!!」

「え・・・・・そ・・・・そんな事ないよ・・・・・」

頬を赤く染め口籠る千鶴に、藤堂は本心が伝わっていない苛立ちから、少々ムキになる。

「本当だって!すっげー旨いよ!
 毎日食べたいくらいだ!!
 これなら千鶴は、いい嫁さんに絶対なれるって!!」
 
「・・・・・毎日?・・・お・・・・お嫁さん・・・・・?」

聞き慣れぬ言葉に、千鶴は顔を真っ赤にした。
それを見た藤堂は、自分の台詞を反芻(はんすう)し、
その言葉の意味の重大さに気付き、これまた顔を赤くして狼狽(うろた)える。

「い・・・・いや、その・・・・・これは・・・・・今すぐって訳じゃなくて・・・・・。
 あ・・・じゃなくて・・・・・その・・・・・」

「・・・・・・・良いですねぇ・・・・・若いって・・・・・」

不意に背後から陰鬱な声がして、藤堂と千鶴は飛び上がった。

「さ・・・・・ささ山南さん!?な・・・・・何言って・・・・」

二人して何やらいい訳がましい事を言っていたが、
山南はふっと乾いた笑みを浮かべ、何も言わずに去っていった。

「全くもう・・・・・何言ってんだかな」

取り繕うように、未だ頬を染めている千鶴へと、
へらっと笑ってみせた藤堂の目の端に、今度は何やら光る物体が映った。

「っ!?鋼道さん!?」

それは、戸口の影に隠れて勝手場を覗いていた、鋼道の頭だった。

「藤堂さん・・・・・」

「・・・・・・何?」

「ま・・・・まだ、娘はやりませんからね!!」

「はぁっ!?」

捨て台詞を吐いて、どこかへ走り去っていった鋼道の背を見送り、
藤堂と千鶴は気恥ずかしい沈黙の中、目を合わせられずにいた・・・・・。



* * * *



京に来ていた西の鬼達は、一応は千紘率いる反抗勢力との抗争に打ち勝ち、平穏を手に入れていた。
だが、未だ千紘とその側近の死は確認が取れておらず、風間としては終結したとは言えず、すっきりしない。
そんな感情を持て余した風間は、また例の如く、癒しを求めて千姫の寝所へやってくるのだった。

突然の風間の訪問に慣れてしまった千姫は、仕方ないと言わんばかりに、
影を落とした秀麗な顔に手を添えて覗き込む。

「風間は・・・・本当に、千紘の死を望んでいるの?」

何かと察しの良い千姫にそう問われ、風間は不機嫌そうに溜め息を吐くと、
ぎゅっとその華奢な体を引き寄せて抱きしめた。

「お前は・・・・変に勘が良くて困る」

抱きしめられ身動きが取れない千姫は、風間の顔を見上げる事ができなかったが、
ぼそりと耳元で呟いた声の響きで、どんな表情をしているのかは何となく想像できた。

他の誰にも決して見せない、風間の本当の姿・・・・。
自分だけには吐露してくれる、風間の本音・・・・。

それを独り占めしているような嬉しさが込み上げ、千姫は風間を何となく愛おしく感じる。

「・・・・・風間・・・・・」

少しでも心の負担が軽くなるようにと想いを込めて、千姫はそっと腕を風間の背に回す。
千姫の暖かさに縋(すが)るように、風間はその柔らかな肢体に顔を埋める。

「・・・・・お千・・・・・」

「なぁに?」

優しげに千姫が声を掛けると、顔を上げた風間は真摯な瞳で愛おしい娘を見据えた。

「お千・・・・・今夜は俺の側にいてくれないか・・・・・・」





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