月桜鬼 第二部

□約束
2ページ/2ページ


斎藤は勇気を振り絞って、堅苦しい沈黙を破った。

「・・・・・いのり・・・・・あの時の言葉・・・・」

いのりは斎藤が何の話をし始めたのかを、正確に悟った。

「あの返事は・・・・・・まだ、胸に秘めておいてくれ・・・・・」

首を傾げたいのりに、斎藤は揺るぎない瞳を向ける。

「必ず俺は帰ってくる・・・・。
 だから、その時に、返事を聞きたい・・・・・」

「・・・・・はい」

差し当たり、即答を強いられるわけでなく、
暫くの猶予をもらえた事に、いのりは少し安堵した。

斎藤の事は嫌いではない、無論好きだ。
いのりにとって、掛け替えのない大切な人だ。
だが、一人の男として見て、どうなのだろうかといのりは思いを馳せねばならなかった。

いのりはまだ恋を知らない。
知らないまま鬼に追われ、逃げ回り、人と接する事を避けてきた。
だからいのりは人への感情というものが、よくわからないのだ。

(恋って・・・・・何なのかしら・・・・・?
 どんな感情を恋というのかしら・・・・・?)

半鬼であるいのりは、自分が恋だの愛だのと関わる事になるなど、考えもしなかった。

(半鬼である以前に、私は女の子なのだということなのかしら・・・・・?)

斎藤の事は嫌いではない。
では、もし斎藤の想いを受け入れたら、どうなるというのだろう?
二人の間だけではなく、新選組や鬼との関係なども、以前とは変わっていくのだろうか?
斎藤と話す内容や、態度や、考えなども、今までの自分とは変わっていくのだろうか?
それは良い事なのだろうか?

いのりは内心溜め息をついた。

(なんだか・・・・・難しいわ・・・・・)

恋に疎いのは斎藤だけではなかったようだ。
厄介なことにいのりもまた、色々と思い倦(あぐ)ねて路頭に迷うような、不器用な娘だった。



次章それぞれの思いへジャンプ


薄桜鬼総合RANK


夢小説&裏夢ランキング
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ