月桜鬼 第二部

□般若の素顔
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(駄目だ・・・・・!!)

必死で嵐は心の中で足掻(あが)く。

人への軽蔑の念が、高貴な鬼になりたいと言う願いが、今までの嵐を支えてきた柱だった。
それは触れる者全てを凍らせる様な、冷たい氷の柱だ。
原田の温かさは、それを溶かそうとしてくる。

嵐はそれを許す事は出来なかった。

生きる糧であった、自分の憎悪を悲しみを苦しみを、全て否定し全て壊せる程、嵐は強くなかった。

「やめろ・・・・・」

「・・・・嵐・・・・」

「私を憐れむのは・・・・やめてくれ・・・・!!」

「そんなんじゃねぇよ・・・・・」

困った様な笑顔で原田は答える。

「俺が勝手に思ったんだよ。
 お前の力になりてぇって・・・・」

原田の声に、殊(こと)の外(ほか)誠実な響きが込められていた。

般若の面を剥(は)ぎ取られ、人である事を見破られ、嵐はもう原田に対しての盾を、すべて失ってしまった。
心に出来ていた大きな溝に、原田の優しさが染み込んできた事を自覚せざるを得ない。
だが、それを受け入れるわけにはいかなかった。

「・・・・・手を放せ・・・・・傷に響く」

嵐の弱々しいながらも明確な言葉に、原田ははっとして腕の力を弱めた。
手負いの女を力づくでものにしようとしている様な、後ろめたさがそうさせたのだろう。
そんな原田の隙を突いて、嵐は居心地の良い温もりからすり抜けた。

「・・・・・愚か者が・・・・」

自分に向けてなのか、原田に向けてかは分からないが、そう言い残すと、
嵐は振り返りもせずに、風のように去っていった。



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