月桜鬼 第二部

□密会
2ページ/2ページ



「・・・・・謎の密会相手か・・・・」

一連の斎藤からの報告を聞き、土方は腕を組んで唸った。

「俺も何とか探ってみましたが、影すら捕らえられず・・・・・申し訳ありません」

悔しそうな表情をする斎藤に、土方は気にするなと首を振った。

「その密会が頻繁になったと言う事は、そろそろ動きが出る頃だろうな」

斎藤は土方の言を是とし、深く頷いた。

「政局に関係なさそうだというなら、おそらく、新選組に関しての密会だな」

「弟である三木三郎にも内密と言う事は、俺もやはり間者として警戒されているのかもしれません」

「・・・・そこだがな、腹心と言われている服部や加納ですら、
 同席していない、相手も分からぬというのだからな、もっと根が深いと思うぞ」

あの狡猾な伊東が、今度は何をしようとしているのか。
斎藤は言い知れぬ不安に、顔を曇らせた。

「伊東が近藤さんに害をなそうとしている事は明白だ。
 あいつの目の上のたんこぶは、この新選組だからな」

「これからは、更に伊東の言動に注視していきます」

「ああ、頼む。何かあったら、すぐに知らせてくれ」

これにて斎藤の報告は終了を告げた。
しかし斎藤は土方の部屋をすぐには退室せず、何か言いたげな表情を浮かべた。

「なんだ?まだ何かあるのか?」

「いえ・・・・・その・・・・・いのりは・・・・・
 元気でやっておりますか?」

土方はにやりと揶揄(からか)うように笑った。

「お、なんだ。今日は会っていく気か?」

思案するように眉間に皺を寄せた斎藤を見て、土方は笑みに憐れみを滲ませた。

「でもまぁ、今日は止めておけ」

いきなり制され、斎藤は怪訝(けげん)そうな表情を閃かせる。

「実はな、あいつは今熱出して寝込んでんだよ」

驚いて息を呑む斎藤に、土方は落ち着けと言わんばかりに手を振る。

「そう心配するな。ただの風邪だ。
 ずっと総司の看病をしてもらっていたからな。移っちまったみたいだ」

安心させるよう穏やかな口調でそう言ったのだが、安堵するどころか斎藤の眉間の皺が更に深くなった。

(総司も風邪を引いていて、ずっといのりが看病をしていた・・・・・。
 いのりに総司の風邪が移る程・・・・・。
 風邪が移る程、長い間、密接に・・・・・・!!)

突如斎藤から吹き上がった剣呑な雰囲気に、土方は軽くたじろいだ。

「ま・・・・まぁ、今も寝てるだろうが、その・・・・
 寝顔くらい・・・覗いてきたらどうだ?」

土方の言に、斎藤ははっと顔を上げたが、また俯き考え込む。

(そんな・・・・いのりの寝顔を覗き見るなど・・・・・
 いや、見たくないわけではない。
 むしろ見たい・・・・。
 だが、失礼ではないだろうか・・・・。
 いのりは熱で苦しんでいると言うのに・・・・・)

仏像のように動かなくなった斎藤を、土方は苛立ちながら見ていたが、我慢しきれず怒鳴った。

「俺の部屋でいつまで悩んでんだ!!鬱陶しい!!
 さっさと行っていのりの様子を見て来い!!」

未だ戸惑う斎藤を部屋から追い出し、土方は苦笑と共に大きく溜め息をついた。

「ったく・・・・・」

斎藤の生真面目さと純朴さに呆れながらも、羨望を禁じ得なかったのだ。

このご時世、一体どれだけの者が、純粋な愛を貫き通せるのだろう・・・・。
男として産まれた以上、一旗揚げたいと願うのは当然の事だ。
だが一方で、惚れた女に命を懸けられるのも、男冥利に尽きると言えるだろう。

「俺としては・・・・どっちも中途半端な生き方をしていると、思わざるを得ないな・・・・」

自嘲とも言える呟きを零し、ごろんと寝転がると、土方は何ともなしに天井を見上げた。
屋根に落ちる雨音は、何だか土方の心を映しているかのように、もの悲しげに聞こえた・・・・。




*薄桜鬼夢小説rank*

次の章吾亦紅(我も恋う)へジャンプ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ