月桜鬼 第二部

□吾亦紅(我も恋う)
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板挟みの斎藤の立場を理解しつつも、いのりは寂しい思いを抑えきれないようだ。

「・・・・さ・・・・うさん」

「・・・・どうした?」

「・・・・・て・・・・」

「・・・・・て?」

もぞもぞと布団が動いたかと思ったら、すっと白い手が這い出してきた。

「あぁ、手か・・・・」

いのりの意図をすぐさま読み取り、斎藤は苦笑しつついのりの手を優しく包む様に握った。
まだ熱がある様で、握った小さな手が熱い。

「まだ熱があるな。もう少し眠ると良い・・・・」

心配して斎藤がそう進言するが、いのりは少し拗ねた様な表情で静かに首を振る。

「だって・・・私が寝ちゃったら・・・・斎藤さん、帰っちゃう・・・・」

何という魅惑的な甘い言葉であろうか。
堅物の斎藤でさえ、つい任務そっちのけで、ずっと側にいてやりたくなる。

しかし、ここでこの誘惑に負ければ、任務もままならず、
大手を振っていのりの元へと帰る事も出来なくなってしまう。

斎藤は心を鬼にして、突き放した。

「それは仕方の無い事だ・・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 だが、眠るまでずっと、あんたの側にいる・・・・」

・・・・・鬼になりきれなかった・・・・・。

今までこんな風にいのりが甘えてくる事は無かった。
自分だけに見せてくれる、いのりの素の部分を愛しいと思う。

柔らかい笑みで斎藤が安心して眠るよう促すと、いのりは少し悪戯っぽい表情を閃かせた。

「斎藤さんにびっくりして、眠気が覚めてしまいました」

確かに意識もハッキリしているように、いのりの顔にも生気が戻っている。
どうしたものかと少し困った顔をした斎藤に、無理を言い過ぎたと思ったのか、
いのりは寂しそうな瞳でねだる。

「じゃあ、何かお話をしてください」

「お話?」

「はい。そうしたら・・・・ちゃんと寝ますから・・・・」

熱のせいか珍しく、いのりは可愛い我儘を言う。
まるで愛情を確かめる様な子供っぽい求めに、斎藤は安心させる様に温かな笑みで応じた。

「・・・・わかった」

斎藤は目を閉じ、幼い頃母や姉から聞いた、昔話の欠片を必死に集める。

敵襲の際に男を救った野菜は、ごぼうだったか大根だったか・・・・?
子供を産むため元の姿に戻ると言った、妻の正体は鮫だったか亀だったか・・・・・?

あやふやな記憶を呼び戻すため固まってしまった斎藤に、いのりは苦笑して助け舟を出した。

「・・・・斎藤さんの話でも良いです」

「・・・・?俺の話?」

「はい、斎藤さんの小さい頃の話とか・・・・」

それなら頭を抱える事無く思い出せるが、常にかつての自分を追い抜くため、
全力で生きてきた斎藤にとっては、過去を振り返るなど、恥をさらすようで躊躇ってしまう。

押し黙った斎藤に、いのりはさらにねだる。

「・・・・・私、斎藤さんの事・・・・全然知らないから・・・・」

いのりがお願いしますと、熱を帯びて潤んだ瞳でせがむと、斎藤は抗えなくなってしまった。

「・・・・わかった・・・・・」

斎藤は苦笑まじりに語り始めた。



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