月桜鬼 第二部

□油小路の変
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* * * *


いのりと藤堂が話している間、斎藤は辺りを警戒していた。
恐らく伊東の帰りの遅さを心配した衛士達が、動き始める頃だ。
案の定、慌ただしい人の声が近付いて来た。

「藤堂!!こんな所で何をしている!!伊東先生がやられたぞ!!」

「え・・・・・!!」

絶句する藤堂を、いのりは痛々しい瞳で見つめる。

「場所は油小路だ!」

「下手人は新選組に決まっている!」

「今から弔い合戦だ!!早く来い!!」

口々にそう言うと数人は急いで油小路へと向ったが、勘の良い男がいたようで、斎藤と若い娘の姿を見咎めた。

「お・・・・・!!お前は斎藤!!」

「何!?」

気色ばんだ気配が辺りに立ちこめる。

「裏切り者の斎藤だ!!」

「この娘・・・・確か新選組にいた・・・・」

「藤堂!貴様・・・・謀ったな!!よくも伊東先生を!!!」

怒りの矛先をこちらに向け、五人程の衛士達が抜刀し、藤堂が弁解の言葉を口に出す暇もなく、斬り掛かって来た。
高い金属音を響かせ、男の凶刃を斎藤の刀が受け止めた。

「ここは俺に任せろ・・・・・」

「・・・・一君・・・・」

「いのりを連れて早く行け!!」

相手が鬼や羅刹でなければ、いのりは修羅になる事が出来ず、己の身すら守れない。
いのりを連れて早くこの場を立ち去らねば、騒ぎを聞きつけた他の衛士達が来てしまうかもしれない。
だが、衛士に対して完全な敵意を用いない藤堂が相手をするより、
自分が退路を確保する方が適任だと、斎藤は直ぐさま判断したのだ。

戸惑う藤堂の手を引いて、 いのりが走り出す。

「待て!!」

後ろから斬り掛かろうとした男の背中を、斎藤が躊躇(ちゅうちょ)する事無く一刀両断する。

「・・・・敵に背中を見せるのか?」

復讐心に燃える衛士達は、まずは標的を斎藤一人に絞った。
斎藤が複数で相手取らなければならない程の、凄腕の剣豪である事は重々承知していたからだ。

猛々しく吠え、斎藤に斬り掛かる男達を背に、 いのりと藤堂は橋を越える。
そのまま新選組の屯所まで行くのかと思いきや、藤堂はいきなり方向を変え、どこかへ向かって走り出した。

「平助さん!!どこへ!?」

「油小路!皆を・・・・止めなきゃ!!」

いのりは藤堂がどの立場で言っているのか分からなかった。
御陵衛士達を救うべく油小路へ行くのか、新選組に加勢するべく向かうのか・・・・・。
分からないが、藤堂一人に行かせるわけにはいかない。

もし未だ戦闘が終結していなかった場合、
自分の存在は足手まといになると分かりつつも、いのりは必死に藤堂の後を追った。


* * * *


油小路ではいのりの予想通り、未だ斬り合いが繰り広げられていた。

だが予想と違ったのは、御陵衛士と新選組の斬り合いではなく、
羅刹と人、そして鬼が入り交じった乱戦だったという事だ。

「・・・・・どういう・・・・・事だ?」

訳が分からず呆然とする藤堂の足下には、元は同志であったであろう、男達の屍が横たわっていた。
混乱したのは、その屍達が獣に食い散らかされた様に、酷く破損していたからだ。

一体何がどうなっているのか、誰も説明する余裕もないようで、誰が敵なのか俄(にわ)かには判断できかね、
藤堂はとにかく抜刀し、背後に既に修羅と化したいのりを庇う形で刀を構える。

兵力差は一体どれくらいなのだろう。
目まぐるしく藤堂は状況を見定める。
小さな黒い群れと成した十数名羅刹と、たった三人が戦っている。

いのりはすぐさま辺りを見回し、武器と成り得るものを探す。

「邪魔が入ったとは言え、首尾は上々だったな。完成は近いか?綱道」

重く響く男の声に、藤堂が鋭く反応した。
聞き覚えのある名を耳にしたからだ。
その声の方を見やると、見覚えのある剃髪の男が、無表情で佇んでいた。

「あんた・・・・・!!雪村・・・綱道!!」

藤堂の驚愕の叫びに、原田と永倉が藤堂の存在に気付き、羅刹を切り払うと側にやってきた。

「おう!平助、遅ぇじゃねぇか!!」

まるで何事もなかったかの様に、永倉が明るく声をかける。

「新八っつぁん!一体これは・・・・何がどうなってんだよ!!」

「うるせぇなぁ・・・。簡潔にいえば、あの男とその鬼は繋がっていて、紛い物の鬼共々敵なんだよ!!」

面倒そうに、だが分かりやすく、近くに降り立った不知火が答える。

「まぁ早い話が、こいつらをどうにかしねぇと、話が進まねぇんだ」

半ば苦笑し、原田も応じる。
三人とも余裕があるようだが、所々傷を負い息も乱れ、どこから見ても劣勢だった。

この状況で、藤堂は迷う事はなかった。

ここで・・・・この場所で・・・・一番大事な事は・・・・
一番・・・・・大事なものは・・・・・。

「よっしゃー!!久しぶりにひと暴れするか!」

藤堂の何の憂いもない、晴れ晴れとした不敵な笑みに、
原田と永倉は腹の底から沸き上がる、爽快な戦意と共に呼応した。

「張り切りすぎて、足下掬(すく)われんなよ!!」

「久々すぎて腕は鈍ってねぇだろうな!!」

「そりゃ、こっちの台詞だぜ!!」

久しぶりの掛け合いに、三人は力が漲ってくるのを感じた。
これだと藤堂は感じた。

生きている・・・・。
生きるために戦っている・・・・。
仲間と共に・・・・・。

何の迷いも無く、澄み切った心でそう思えた。

「け・・・・さっきまでくたばりかけてたくせに・・・・」

不知火が呆れた様に三人の男を見やる。

「・・・・・面白ぇじゃねぇか・・・・・」

原田達に興味がわいたのか、愉快そうに笑みを浮かべると、
不知火は腰に備え付けてあった銃弾を補充し、再び羅刹に向け引き金を引き始めた。



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