月桜鬼 第二部
□憂い
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藤堂が羅刹となった。
この一報を聞き、近藤、土方、沖田は絶句した。
確かに、いのりが御陵衛士となった藤堂を連れ戻す経緯の中で、
一体何がどうしたら藤堂が羅刹となるのか、俄(にわか)には理解しがたい事だ。
斎藤、原田、永倉、そしていのりの報告を繋ぎ合わせ、土方達はようやく大体の事情を把握した。
昏倒した藤堂は密かに屯所に運び込まれ、今は山南共々、羅刹隊に宛てがわれていた一室に匿(かくま)われている。
「山南さんに続いて、平助まで・・・・・」
近藤は苦悩の表情を滲(にじ)ませる。
土方などが気遣う様に見つめるが、近藤が背負ったものを肩代わりする訳にもいかず、もどかしそうだった。
暫くして目を覚ました藤堂は、いつもと変わらぬ笑顔で、本当に羅刹になったのか疑わしい程だ。
見舞いに訪れた近藤は、藤堂の照れくさそうな笑みの前に、ただただ頭を下げるしか無かった。
「・・・・平助・・・・・すまん!俺が不甲斐ないばっかりに・・・・・」
そんな近藤に、藤堂は困った顔で笑ってみせた。
「やっ止めてくれよ、近藤さん!
これは、俺が決めた事だし・・・・。
俺が・・・・・選んだ結果なんだ・・・・・。
そんな事より・・・・・俺を・・・・あんな形で皆を裏切った俺を
・・・・・また、受け入れてくれて・・・・・ありがとう・・・・」
その笑顔は、何の憂いもない、晴れ晴れとしたものだった。
当分の間は藤堂の様子を見るように、と土方に頼まれたいのりは、
山南が変若水を飲んだ時と同様、自分が止めるべきだったのではないかと思い悩んでいた。
そんないのりの様子を見咎(みとが)めて、藤堂は明るく言い放つ。
「いのりが言ったじゃん。
苦しみながら見出だした答えだからこそ、本当に身命をかける価値があるって・・・」
「・・・・・そうですけど・・・・・」
「俺、あん時思ったんだ・・・・。このまま死ねねぇって・・・・」
「平助さん・・・・・」
「あれだけ苦しんで導きだした俺の本心を、皆に伝えきれずに・・・
・・・いのりを鬼の手から守ってやるって言う約束も、
親父さんに会わせてやるって言う約束も守れずに、このまま塵(ちり)みたいに死んでいくのは、
嫌だと思ったんだ・・・・・例え、人でなくなっても・・・・」
強い意志の籠(こも)った瞳でそう言い切られ、いのりは何も言えなくなってしまった。
ただこの選択が、藤堂を明るい未来へ導いてくれるのを、祈るばかりだった。
そして、いのりの憂いは藤堂の事ばかりではなかった。
沖田の容態も、僅(わず)かずつではあるが、悪化しているのは目に見えていた。
沖田も何だか心細いのか、いのりを側に置きたがり、常にいのりの周りに纏(まと)わり付いている。
斎藤の復帰、藤堂の羅刹化、そして御陵衛士からの報復への警戒・・・・。
目まぐるしい事態の展開の対応に追われ、忙(せわ)しない屯所の中で、
そんな二人を厳しい目で見つめている男が居た。