月桜鬼 第二部

□光への希求
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* * * *



凍てついた夜気も寄せ付けない程の、賑やかな熱気が広間に漂う。
久々に幹部そろっての酒宴に、皆は笑顔で杯を重ねる。

これが永久の離別ではない、と言い聞かせるかのように、
誰一人しんみりとする事なく、別れの言葉を口にする事なく、
ただ、大切な仲間達との大切な時間を満喫していた。

そんな中、笑顔を浮かべながらも、内心複雑な思いを抱いている男がいた。

「・・・・・沖田さん?どうかされました?」

宴の騒がしさの中透き通った声が聞こえ、沖田は視線を上げると
気遣わしげにに自分を覗き込む、いのりと目が合った。
どうやら、酒の進まぬ沖田の体調を心配してくれたようだ。

「ん?何でもないよ?楽しく飲んでるよ?
 ・・・・久々だからね、こんな皆で騒ぐのは」

にこりと笑ってみせたが、いのりの表情から憂いを完全に払拭する事はできなかった。

「あまり無理しないでくださいね?」

「うん。分かってるよ」

「分かってません」

即答した沖田に眉をしかめ、いのりはその手から酒の入った杯を奪った。
驚いた沖田に新しい杯を持たせると、いのりは自分が持ってきた燗徳利(かんとっくり)を傾ける。
どうぞと勧める華やかな微笑に、訝しげな視線を送りつつ沖田は口をつけた。

それは温かい茶だった・・・・・。

眼を丸くした沖田に、いのりは人差し指を形の良い唇に付け、悪戯っぽく笑ってみせた。
恐らく酒宴の雰囲気を壊さず、尚(なお)かつ沖田の体調を気遣う為の、苦肉の策だったのだろう。
いのりの細やかな配慮に感謝すると共に、愛おしさが込み上げてきた。

「いのりちゃん・・・・・」

「はい?」

「ありがと」

「はい」

満面の笑みを交わし合った二人に、刺す様な視線が送られているのを沖田は感じ取った。
その方向に目を向けると、案の定斎藤が鋭い目つきでこちらを睨んでいる。
沖田は肩をすくめていのりを手招きすると、耳元で囁いた。

「一君が凄い睨んできてるから、お酒でも注いで来てあげてよ」

目をぱちくりさせて、いのりも斎藤へと視線を送る。
確かに、先ほどより更に苦々しい顔で、こちらを凝視している。

「間違えて、お茶を注いだりしないでね」

それはそれで面白いけど、とは口には出さずに、沖田がにやりと笑うと、
いのりも気をつけますと澄まし顔で答え、茶入りの燗徳利を沖田に渡して行ってしまった。

急に辺りの空気が冷えたように感じる。

沖田はこの酒宴を楽しくないとは思っていはいなかった。
むしろ、今後このような宴はもう二度とないかもしれないという思いもあり、
脳裏に焼き付けるがごとく、謳歌(おうか)しようと考えていた。

だが、ここに来る直前、鋼道に呼び止められたのだ・・・・・。

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