月桜鬼 第二部
□光への希求
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吸血姫2からの続き
斯(か)くして、娘である千鶴を取り戻す事ができた鋼道は、
処分が決定するまで、娘と共に鬼の里での蟄居(ちっきょ)を風間から命ぜられた。
無論鋼道を監視下に置くと共に千鶴の保護を目的としているのだろうが、二人一緒というところが、
離れ離れだった父娘に暫くの間でも水入らずの時間を作ってあげたいと言う、心優しい配慮が垣間みられる。
あの風間がこのような細やかな心遣いができる筈もなく、
どこかの誰かが、風間に助言を与えたのだろうと察する事ができた。
鋼道は以前明言した通り、謹慎中も変若水の効果を打ち消す新薬の研究をすると、決意を新たにしていた。
だがそんな中、鬼の里へと向う鋼道と千鶴に追従する申し出をする者がいた。
山南と藤堂だ。
「・・・・・私も変若水改良に携わった者として、鋼道さんのお手伝いをしたいと思います・・・・」
「それにさ、さすがに俺たちがこれ以上屯所に隠れ住むのも、限界だと思うんだよ・・・・・。」
そう言われると、近藤も土方も何も言えなかった。
確かに屯所は移転に移転を重ね、山南や藤堂を匿うだけの余裕を、確保し辛くなっている。
これ以上何も知らされていない平隊士達に、
羅刹となった二人の存在を秘密にし続ける事は、困難である事は明白だった。
山南達にしても、人目につかぬよう息を殺してひっそりと生きるのは、精神的にも陰鬱(いんうつ)で辛いのだろう。
「なぁに、呼んでくれりゃ、いつでも応援に駆けつけるからさ!!」
「ええ、私たちは何処にいようと、どんな姿になろうと、新選組の一員であると自負しています」
二人の強い意志の籠(こも)った瞳に見つめられると、
近藤としても、彼らの決意を否定する事はできなかった。
こうして山南と藤堂も、新選組の屯所から去っていく事になった。
「よっしゃぁああ!!今日は飲み明かそうぜ!!平助!!」
「って、新八っつあん!!まだ真っ昼間だぜ!?っつーか、俺、体怠ぃんだけど・・・・・」
そう苦笑気味に言い返した藤堂の表情は、以前御陵衛士として新選組を出て行ったときとは違い、
晴れ晴れたとしたものだった。
* * * *
「・・・・・これ・・・・・いつになったら終わるんだ・・・・・?」
呆然と佇(たたず)む藤堂の呟きに、いのりは深く深く同意した。
山南の部屋には大量の書籍と薬品が、所狭しと溜め込まれていたのだ。
「ほら、ぼうっとしてないで、手伝ってください」
「お・・・・おう!」
「は・・・・はい!」
山南と藤堂、いのりの他にも、鋼道と千鶴も加わり、
皆襷(たすき)がけの姿で山南の部屋の片付けを手伝った。
私物らしい私物は殆どなく、あるのはやはり変若水の研究に関わる物が多かった。
それ故にどうすべきかを、いちいち山南達に指示を仰がねばならないのだが、
当の山南と鋼道が資料を確認する度に、話し込むため埒(らち)があかない。
「ほう・・・・・ここに着眼点を・・・・・さすがですね・・・・・」
「有り難うございます。ですが、私としましては・・・・・・・」
「山南さん!!!」
「父様!!!!」
見かねた藤堂と千鶴が叱咤し、ようやく片付けが再開するの繰り返しで、ちっとも終わる気配がなかった。
「ねぇ・・・・いのりちゃん。まだ終わらないの?」
いのりの手が空くのをずっと待っていた沖田が、痺れを切らしてひょっこり顔を出してきた。
それが運の尽き。
目敏く藤堂が、沖田を巻き込もうと声を掛ける。
「お!総司!手伝ってくれるのか?ありがてぇ!!」
「やだね。僕はこの前まで熱出してたんだよ?」
「それはこの前だろ?」
以前土方と沖田が交わしたやり取りで切り返され、沖田は渋々襷(たすき)を掛けた。
自分も手伝った方が早く終わり、早々にいのりが解放されるだろうと考えたようだ。
結局その後に、斎藤や井上、山崎に島田と加わり、十人がかりでようやく片付けは終了した。
もう既に太陽は沈みかけ、目映い橙色に輝いている。
疲れ切った皆が広間でぐったりしていると、飄々(ひょうひょう)とした足取りで、原田と永倉がやって来た。
「お、片付け終わったのか?ご苦労ご苦労」
半ば笑いをかみ殺して大仰(おおぎょう)に頷く永倉に、藤堂は不満の声を上げた。
「何だよ!!新八っつあん達も、手伝ってくれりゃ良いのにさ!!」
「何言ってんだよ。俺たちはちゃんと巡察って言う仕事をしてたんだぜ?な、左之」
「まぁな。ほれ、互いに仕事が終わったんだ。これからぱぁっと飲もうぜ?」
原田の提案に異を唱える者は、一人もいなかった。