山崎烝の新選組日記

□我、新たな趣味に目覚める(!?)の事
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某月 某日



俺は土方さんに呼び出された。
何やら監察方の仕事が入ったようだ。

副長の部屋へ入ると、中には難しい顔をした土方さんが腕を組んで座っていた。

(これは・・・・・ただ事ではないな・・・・)

密かに俺は気を引き締める。

「おう、山崎。お前をここに呼んだのは他でもねぇ。お前ぇにしか頼めねぇ仕事ができた」

「はい、承知しております」

俺が深々と頭を下げると、何故か土方さんはほっとした表情を見せた。

「そうか・・・・・では、頼んだぞ」

そう言って、一つの大きな風呂敷包みを俺の前に差し出した。

「・・・・・・・これは?」

「振袖だよ?」

突然障子が開き、ひょっこり沖田さんが顔を覗かせてきた。

何だってこの人は、副長に対してこんな不躾な事ができるのだろうか・・・・・
幼馴染みだからか?公私混同ではないだろうか・・・・。

などと考えていたが、ふと先ほどの沖田さんの言葉が引っかかり、俺は訝しげに沖田さんを見上げる。

「・・・・・振袖?」

「そうそう、今日は僕が相手なんだから、可愛くしてよね」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・何だ?無性に嫌な予感がするんだが。

満面の笑みを浮かべながら沖田さんは、部屋に入って土方さんの横に座る。

「・・・・・・・・・・そういえば、聞いていませんでしたが、今回の任務とは・・・・・?」

「ああ、実はな。とある出会茶屋で、不逞浪士達が密かに会合を開いているらしい。そこで・・・・・・」

「ちょ・・・・・ちょっと待ってください。もしかして・・・・・・・」

「はははっ、やっぱり山崎君は察しが良いなぁ。そうだよ、そこへ僕と内偵へ行くんだよ」

やっぱりいぃぃぃぃぃいいぃぃぃぃぃいいいいい!!!!
どうりで、沖田さんがにやついていると思ったああぁぁぁあ!!!

「無理無理無理っ!!無理〜〜〜〜!!」

と言いかけた俺に、沖田さんの冷ややかな鋭い視線が刺さる。

「まさか・・・・・断るつもり?山崎君、監察方でしょ?変装は得意でしょ?」

いやいやいや、変装じゃなくて、女装だから!!!

「お言葉ですが、それは俺でなくても・・・・・・」

「そうは言っても、協力してくれるような女はいねぇし、まさか島田に頼む訳にもいかねぇだろう」

土方さんの言葉に、俺は凄まじい想像をして吐き気を催した。
確かにあのガタイの島田さんでは無理だ・・・・・。

「で・・・・では、藤堂さんは・・・・・・」

俺は藁にも縋るつもりで、幹部の一人を犠牲にしようとした。

「ああ、もう平助は昨日やったから。新八さんと」

沖田さんの一言に、あっけなく玉砕・・・・・・。
ううう・・・・・同情します。藤堂さん・・・・・・。

すると、沖田さんは今まで見た事のない程の真摯な表情で、項垂れる俺を正視した。

「山崎君。君は自分の矜恃と新選組の任務と、どちらを優先させるのさ。
 男にとって女装は恥だとでも思ってるの?それは監察方としては中途半端な腹構(はらがま)えだね。
 そんな事言ったら、歌舞伎の女形(おやま)を演じている男役者を馬鹿にしてるのと一緒だよ。
 彼らはそこら辺の女より、よっぽど色っぽい。
 しっかり職責を全(まっとう)している。
 平助だって、何だかんだ不平を言いつつも、ちゃんと任務としてこなしたよ?
 君はどうなのさ?山崎君」

沖田さんに畳み掛けられ、俺は折れた・・・・・・。

全くの正論だった・・・・・・・。
俺は下らぬ自尊心に固執し、大切な職務を蔑(ないがし)ろにしようとしていたのだ。
いつも飄々としていて、不真面目で軽薄に見えている沖田さんだが、やはり一番隊の組長をしているだけはある。

俺は猛省して、今回の任務に全身全霊をかけると誓った。



* * * *



「すっげー!山崎君!!」

「ほほう・・・・これは見事だな」

「こりゃ、やべぇな・・・・・」

「へぇ〜、ちゃんと女に見えるぜ」

「平助と良い勝負だね」

「勝負してねーよ!!」

藤堂さん、斎藤さん、永倉さん、原田さん、沖田さんが、別に必要もないのに俺の女装の姿を見にやって来た。

だが、褒められて嬉しくないはずはない。
俺の女装は完璧だ。新選組の監察方として、恥ずかしくないよう努力したのだから!!!
その辺りの女より、よっぽど綺麗になったはずだ!!

これで沖田さんも満足だろう。

いや、もう少し胸に詰め物をした方が良かっただろうか・・・・・?
振袖は、もっと淡い色の方が良かった・・・・・・?
紅ももう少し派手目の方が綺麗だったかしら?
う〜〜ん、仕草も女らしくしなくてはね。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?
・・・・・・・俺、間違ってないよね?
・・・・・・・道、踏み外してないよね?!
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