山崎烝の新選組日記
□我、本領を発揮するの事
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(・・・・・・こいつら・・・・・・)
曲がり形にも新選組幹部である人達を、こいつら呼ばわりするのはどうかとは思うが、
この体たらくだと、我慢ができない!!
俺の足下には、三匹の水揚げされた鮪(まぐろ)・・・・・ならぬ、飲んべえ三人組が転がっていた。
「藤堂さん!原田さん!永倉さん!!何をやっているんですか!!」
「ううぅ・・・・やまざぎぐん・・・・・あんまり・・・・おおぎなごえは・・・・・」
「頭に響くんだよ・・・・・なんか薬ねぇか?」
「おお、山崎・・・・水・・・・水をくれ・・・・・」
それぞれが勝手な事を言う。
全く・・・・・この人達は、また昨夜も島原で飲み明かし、二日酔いでぐだぐだしているというわけだ。
だらしない!!
酒を飲むなら飲まれるな!!!
飲んだら乗るな、乗るなら飲むな!!
あれ?これはちょっと違うか・・・・・。
俺は自業自得だと言わんばかりに、ことさら要求を無視し、さっさと仕事に戻った。
* * * *
さてと・・・・・・
酒の匂いに塗(まみ)れた自堕落な空気から逃れ、俺は正門を出て清々しい朝の光を浴びた。
(こんな気持ちの良い日に、惰眠を貪(むさぼ)るとは・・・・もったいないとは思わんのか・・・・)
爽やかな空気を胸一杯に吸い込み、活を入れて調査へ向おうとした俺に、背後から声が掛かった。
「あの・・・・・もし・・・・・」
涼やかな女の声に、直ぐさま振り返ると、そこには清楚な感じの女が佇んでいた。
手には大きな荷物を大切に抱え込んでいる。
そして表情には微かな陰りがあり、儚げな美しさが漂っている・・・。
「・・・・何でしょうか?」
もしや間者か何かかと、俺は密かに警戒心を高めて応える。
すると女は、躊躇いがちに口を開いた。
「あ・・・・あの・・・・・人を・・・・探しているのです・・・・」
「人?ならばここではなく・・・・」
「い・・・いえ、探し人はここにいるのです・・・・」
冷静な俺の言葉を遮り、女は慌てて首を振る。
「ここに・・・・?」
(隊士の誰かの身内だろうか?)
そう思っていると、女の抱えていた荷物が不意に動いた。
驚いて目を見張ると、張り詰めていた女の表情が緩み、優しげな笑みを浮かべた。
「大丈夫よ、坊や。もうすぐ父様に会えますからね・・・・」
(ああ・・・・荷物と思っていたが、赤子だったのか・・・・)
「分かりました、ここの隊士のお身内でしたか。ではお呼びしましょう。名は何と申されますか?」
「有り難うございます。この子の父親の名は・・・・・・」
俺はその名を聞いて、晴天の空から雷電の直撃を受けた・・・・・・・・・・。