とある鬼の昔話

□逃避行
1ページ/2ページ

柳は桜の様子から、飛び込んで来た人間が桜達の味方である事をすぐさま理解した。

「桜!梓!無事か!?怪我はないか!?」

銀は必死の形相で胸に飛び込んで来た、桜を抱きしめる。

「銀!銀!・・・・・・」

凛と構えていた桜は、本当は怖くて仕方なかった。
一体どれだけの人間が襲撃して来たのか、何が目的か、被害状況も、逃げ場所も、逃げる術も分からない。
そんな状況で、自分の愛する人が危険を顧みず、助けに来てくれた。
ただ、その安堵感で桜は自分の思考を停止してしまった。

そんな中聡明な柳は、桜達への忠誠はともかく、体格、剣技、実戦経験、
どれをとっても自分は銀に劣ると瞬時に判断し、銀に二人を託す決断をした。

「早く二人を連れて、逃げてください!」

柳の決意に満ちた声に、桜ははっとした。

「何を言ってるの?柳・・・・一緒に逃げるのよ!」

桜が柳を説得しようとしている間に、銀は手早く梓を背負うと、
柳から渡された襷(たすき)で梓を落とさぬよう自分と結ぶ。
そして、銀は桜を抱き上げた。

「ぎ・・・・銀!?」

人である銀にこれほどの力があったのかと、桜は驚愕した。
銀は窓枠に桜を座らせ、自分も足を掛けて外に身を乗り出した。

「どうかお気をつけて」

冷静な柳の声に、梓が泣き叫ぶ。

「嫌だ!!嫌あ!柳も一緒がいい!!一緒じゃなきゃ嫌だ!!」

銀の背中で暴れる梓の手を、柳が優しく手にする。

「梓様、柳はきっと、梓様をお迎えに上がります。それまでの辛抱です」

「柳・・・・・」

鬼の少年は、梓の不安を払拭するように、明るく微笑む。

「柳は梓様の護衛役ですよ。必ず、梓様の元へ帰りますから・・・・・」

「絶対よ!!絶対よ!!約束だからね!!」

「さっ!早く!!」

銀を押した柳の胸ぐらを掴み、銀は少年の耳に鋭くささやいた。

「内通者がいる。気をつけろ」

銀はそれだけ言うと桜の手を引き、屋根伝いに走り去っていった。

「・・・・・どうか・・・・ご無事で・・・・・」

柳はそっと呟くと、表情を引き締め再び刀を持って、もはや主のなくなった寝所を飛び出していった。

次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ