とある鬼の昔話
□銀の過去とこれからの未来
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「前領主の剣術師範を勤めた方に銀の話をしたら、
是非うちに来て手伝って欲しい、と言ってくださったわ」
尼僧がそう銀達に告げて来たのは、あの襲撃から三ヶ月経った頃だった。
「色々すみません・・・・・本当に比丘尼(びくに)様には一生頭が上がりませんよ」
照れたように笑う銀に、尼僧はすました顔でぴしゃりと答えた。
「そりゃあ、貴方みたいな悪餓鬼の母親やってるんですからね。感謝されて当然です」
「まだ餓鬼扱いだ・・・・」
そう苦笑して、頭をかいた銀を見て、思わず桜と梓が吹き出してしまった。
その様子に、尼僧は本当に幸せそうに微笑んだ。
* * * *
「銀とともに生き抜いてみせる」
そう決意した桜。
「そのためには、銀のお荷物にならないように、自分に出来る事はやっていなくちゃ」
そう思いつつも、桜は鬼の里から出て生活をした事はない。
一応花嫁修業なるものは習得したが、実際人里で暮らすとなると、不安になる。
あれこれ考えていると目が冴えて、眠れなくなった。
ふと、寝ている銀と梓を見てみると、布団をはだけ寝ている銀の腹を枕に、梓が心地良さそうに寝ている。
無防備な二人の寝顔に、思わず桜の顔がほころぶ。
布団をかけ直してやると、桜は水を飲むためそっと外へ出た。
すると、御堂の方から微かながら光が漏れ、人の声が聞こえる。
なんだろうと思い、桜が御堂に近づいて扉の隙間から覗き込むと、尼僧が一心不乱に読経していた。
「比丘尼様・・・・まだ起きていらっしゃったんですか??」
心配そうに桜が声をかけると、尼僧はすっと振り返り
桜に微笑むと、側にくるよう手招きした。
素直に尼僧の側に座った桜の手を、そっと尼僧の手が包んだ。
「比丘尼様・・・・・??」
「・・・・桜さん。私は貴方に感謝しています・・・・」
いきなり何を言い出すのかと、戸惑う桜の思いをよそに、尼僧は続ける。
「あの銀が・・・・・人を愛する事を覚え、貴女の様な素敵なお嫁さんを見つけるなんて・・・・」
「おおおおお嫁さん!?」
真っ赤になって桜はうろたえる。
そんな桜を、優しいまなざしで見つめる尼僧に気付き、桜は思わず呟いた。
「比丘尼様は・・・・・母上に似ていらっしゃいます・・・・」
「あら、きっと桜さんに似て、美しいお母様でしたでしょうね。光栄だわ」
おどける尼僧に、桜から笑みがこぼれる。
すると、尼僧は急に真面目な顔で、桜の正面に向き合った。
「これから、ずっと銀を支えてくださいね」
「・・・・はい・・・・勿論です」
「・・・・ありがとうございます・・・・・。なら、少し、銀の話をしましょうか」
「銀の話?」
「ええ、銀がどのような人生を辿って来たのか・・・・貴女には知っていて欲しいのです」
凛と張りつめた尼僧の声に、桜は身を固くした。
「・・・・・あれは・・・・・今から十八年も前の事です・・・・・