沖田総司

□悪戯
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「きゃぁああぁぁああ!!」

静かな夜の屯所に女の子の悲鳴が響き渡った。
屯所にいる女の子はいのりちゃんだけだ。
何事かと、皆慌てて部屋から飛び出してくる。

本当にいのりちゃんは、幹部連中から可愛がられてる。

まぁ、僕が一番可愛がっているとは思うけど。
だって、普通の女の子とは違うから。

半鬼ってだけじゃない。
弱いようで強くって、甘いようで厳しい。
しっかりしているようで、何だかそそっかしい。

だから、僕の予想を遥かに超えた反応が返ってくる。
その意外性が楽しい。

しかも、顔が僕の好みなんだ。
優しい顔立ちに、好奇心旺盛なキラキラした瞳。
そしてたくさんの表情。

いのりちゃんのいろんな顔が見たい。
独り占めしたい、こっちを向いて欲しい。
いろんないのりちゃんを、僕は知りたい。
僕だけが知っていれば良い。

だからいろんな悪戯を、いのりちゃんにしてしまう。
凄く怒るけど、最後にはちゃんと笑って許してくれる。

どこまで許してくれるかな?
どこまで僕を受け止めてくれる?
天の邪鬼な僕は、面と向かって彼女に聞けない。
警戒心の強い僕は、言葉だけでは信じきれない。

だから試す。
何処まで僕を受け入れてくれるのか・・・。
心の中で、僕の事を嫌いにならないでねって思いながら、試すんだ。

なのに、いのりちゃんの部屋まで行くと、廊下で新八さんに抱きとめられている。
・・・・・・何だか腹が立ってきた。

「・・・・・何やってるの?・・・・」

殊(こと)の外(ほか)、声が冷たくなってしまったのは、仕方ない。
僕の声にいのりちゃんが、弾かれたように勢いよく振り向いた。

頬を赤く染め僕を睨むけど、身長差からいってどうしても上目遣いになる。
なんだか怒りに満ちている目でさえ、可愛らしく見えてしまうんだから、僕も相当重症だね。

「沖田さんですね!!酷いです!あんな事するなんて!!」

あ、この顔は本気で怒ってる。

それに気付いたように、皆と一緒にやって来た一君が、いのりちゃんの部屋に入った。
そこでもぞもぞ動く布団の前で足を止め、勢い良くめくる。
布団の中から十数匹の殿様蛙が飛び出して来た。

一君だけじゃなく、平助、左之さん、新八さんから呆れた様な冷たい視線が僕に集まる。

ま、そうだよね。
こんな事するの僕くらいだから。

でもさ、子供っぽいなんて思わないで欲しいな。
女の子が怖がるのって、やっぱり蛙とか、蛇とか、蜘蛛とかが定番でしょ?

いのりちゃんはお化けとか怖がらないから(自分が半鬼だしね)
何が怖いのかとか、知りたかっただけだよ。

「沖田さん!!なんて事するんですか!!」

いのりちゃんの大きくて茶色い瞳が、涙で滲んでさらに綺麗に見える。

ああ、やっぱり女の子だね。
蛙が苦手なんだ。

そう僕が思った矢先、 いのりちゃんは意外な台詞で僕に詰め寄った。

「酷いじゃないですか!!蛙さんが可哀想です!!
 あんな事したら死んじゃいますよ!」

「・・・・・・蛙・・・・・怖くないの?」

「?そりゃ、驚きはしましたけど・・・・・。
 別に蛙さんは噛み付いたりしませんし・・・・・」

いのりちゃんは僕の問いの意味が分からないらしく、
きょとんとした顔で見返してくる。

「・・・・・・じゃあ、気持ち悪くないの?」

「??田んぼにも山にも蛙さんなんて、どこにでもいるじゃないですか。
 今更気持ち悪がったりしませんよ」

・・・・見慣れてるってか・・・・・。

そうだ、そうだった。
いのりちゃんは上品な物腰とは裏腹に、根っからの野生児だった。

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