月桜鬼 第一部

□風霜
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結局、近藤の厚意に甘える形で、いのりはまたしばらく新選組の屯所に滞在する事になった。

それがいつまでか・・・・・。
もしかしたら、永遠にここから出る事が出来なくなるのかもしれないという不安もあったが、
今はとにかく焦らない事だといのりは自分に言い聞かせていた。
交代で監視をしに来た者も、いのりの正体やこれからについてには、一切触れずにいてくれた。

一方新選組からしたら、あれから五日ばかり経ったが少女の監視の成果と言えば、
外部と連絡を取っている様子も無く何かを探る様子も無く、
ただ毎日を苦悩とともに必死に生きる少女の姿が、そこにあるだけであった。

無為に日々が過ぎ去るのかと土方が焦れていると、突然いのりが動き出した。

いのりは、このままただ世話になり続ける事が心苦しくなり、
綺麗に洗濯され八木の奥方から戻された巫女装束を着て、初めて自ら部屋から出たのだ。

監視の当番だった藤堂は、いのりの巫女姿を見て思わず声を上げた。

「あれ?いのり、ソレって巫女さんの衣装?似合ってるじゃん」

いきなり声をかけられ、いのりは驚き体を強張(こわば)らせる。

「あ・・・・有り難うございます・・・・」

顔を真っ赤にして、聞こえるか聞こえないかの声で答える。

「平助〜なんかやらしい事でもしたの?この子、怯えてるじゃない」

ふらりとやって来た沖田にからかわれ、藤堂も顔を赤くして慌てる。

「な!!・・・・ちげーよ!!俺はただ・・・・・!!」

藤堂の言い訳など全く聞く気が無いようで、沖田はすっといのりの前に立つ。

「で、いのりちゃんはどうしてまた、そんな格好してるの?」

にこやかに・・・だが体から発される殺気を抑える事なく、沖田はいのりに問いかける。
すると沖田をしげしげと見上げていたいのりは、ほっと緊張を解いた。
確かに藤堂とは違い、沖田とは一度会っており話もした。
だがこれだけ殺気を向けられていながら、何故安堵できるのか・・・・。
その意外な反応に驚いた沖田は、殺気が削がれてしまい咳払いをして心の体勢を整えた。

「で、なんでそんな格好してるの?」

「はい、あの・・・・体調も戻りましたし、ここに置いていただいてますので、
 何かお手伝いでも出来ればと思いまして・・・・。
 でも、八木の奥様のお召物(めしもの)を汚す訳にはいきません。だからこの格好でなら・・・・・・」

必死にそう訴えるいのりに、ふうんと鼻を鳴らし、上から下までいのりを見ていた沖田は、ついておいでと手招きしつつ歩き出した。
それにいのりは、素直に後をついていこうとする。
先ほどから殺気で威圧しているにもかかわらず、全く何も感じていないようだ。

(・・・・・鈍い子だね)

半ば呆れながら肩をすくめた時、藤堂が慌てたように沖田を呼び止める。

「おい、総司!その子をどこへ連れてく気だよ。
 まさか、裏手へ連れてって斬るつもりじゃないだろうな!」

さすがに藤堂は沖田の殺気に気がつき、睨みつけてくる。

「・・・・・まさか。いくら僕だって、そんな勝手な事はしないさ」

二人の会話に、いのりはきょとんとした顔で沖田と藤堂を交互に見つめていた。

(本当に鈍い子だね・・・・これなら、いつでも殺せるか・・・・)

「さ、土方さんの所へ行くよ。
 一応、出歩くにも許可がいる立場なんだから」

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