月桜鬼 第一部

□氷雨と光明
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もう、新選組に保護されて何度目の朝を迎えた事だろうか・・・・・。
いのりはぼんやりそんな事を考えながら、凍えた庭を雪見窓から眺めていた。
京の冬は深々(しんしん)と底冷えがする。
その上今日は一段と冷えるようで、部屋の中でも息が白くなる・・・・。

いのりが手に息を吹き付け摩(さす)っていると、障子の外から声がかかった。

「おぉい、ちょっと開けてくれ」

(この声・・・・・確か藤堂さん・・・・??)

何であろうかと小首を傾げて障子を開けると、両手で火鉢を持った藤堂が満面の笑みで部屋に入ってきた。

「いやぁ、今日は冷えるよなぁ。近藤さんに言ったら、火鉢持ってって良いって言ってくれたからさ」

「え・・・・・?私にですか・・・・・?」

「ここに持ってきたんだから、そうに決まってるだろ?」

「あの・・・・・・有り難うございます・・・・」

まだ炭を入れたばかりなのか、それほど温かくはないが、その心遣いがいのりにはとても嬉しかった。
深々と頭を下げるいのりに、藤堂は闊達(かったつ)に笑ってみせる。

「良いって、良いって!!そんなに畏(かしこ)まるなよ。
 それに近藤さんがさ、女は体を冷やさない方が良いって言ってたからな」

藤堂は歳も近い事もあり、よくいのりに気さくに話しかけてくれる。
藤堂の屈託のない明るい笑顔に、いのりの陰鬱な闇に包まれかけていた心は、何度も救われていた。

(でも・・・・藤堂さんは・・・・私のあの姿を見ていないから・・・・・・)

少し晴れ間が見えかけたいのりの表情が再び曇ったのに気付き、藤堂はまた明るく声を掛ける。

「で?他に欲しいものとかあるか?なんせ男所帯だからさ〜、
女の子に必要な物とか全然わからねぇんだよ」

「あの・・・・・・でしたら・・・・・・」

「お、何だ?何かあるか?」

身を乗り出した藤堂に、いのりは躊躇(ためら)いがちに答えた。

「あの・・・・・おて・・・・を・・・・・・」

「は?何?声が小さくて聞こえねぇんだけど・・・・・」

「あ・・・・・えっと・・・・・お・・・・・」

「・・・・・だからさ、もっと大きな声で・・・・・」

困った様に苦笑しながら藤堂はいのりに近付く。

「私に・・・・・・・・・・お手伝いさせてくださいっ!!!!!」

「のおっ!?」

更に身を乗り出した藤堂の耳元で、いのりは叫んだ。

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