月桜鬼 第二部

□宴会
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「・・・・・どうしてこうなったんだっけ??」

ふといのりは首を傾げた。


* * * *


見事警護から三日目で、原田は制札(せいさつ)を引き抜いていた不埒者を捕らえる事に成功した。
全員を捕まえられなかったのは痛かったが、それも後々追求すれば分かるというもの。
幕府としては、その解決の早さと成果に大変満足した。

そこで原田と、共に制札の警護を務めた隊士達にも報奨金が支払われる事になったのだ。

「何だよ〜。何で俺の時にあいつら来なかったんだよ〜」

「ほんとだよ。僕の時に出てきたら、捕縛と言わずちゃんと斬ってやったのに・・・・」

「・・・・・・いや、左之の時で良かったな・・・・・」

意外と本気を含んだ沖田の声に、永倉は会ってもいない下手人の幸運に苦笑した。

「ま、俺でなくとも、あいつらを捕まえられただろ?
 俺があいつらと出くわしたのはただの運だ。
 だからよ、この金で皆で飲みに行かねぇか?」

「ええええぇぇぇえ!!なんだ!?いいのかよ!!
 いやあ左之助君、太っ腹!!」

素直に喜ぶ永倉を横目に、沖田は意味有りげな笑みを浮かべた。

「ふ〜〜ん・・・・・・」

「・・・・・何だよ総司」

「いやぁ、珍しいなぁって思ってさ」

「何がだよ。俺が皆に奢るのが、そんなに珍しいか?」

「違うよ。左之さんの感じがね。
 ・・・・・・何か良い事あった?」

沖田の鋭さに、思わず原田はどきりとする。

別に悪い事をしたつもりはないが、正式な報告にはあの般若面の娘、嵐のことは伏せてある。
まだ近藤達にも話していない。
忙しそうに右往左往している近藤達に、どう報告するかまだ考えまとまらず、今に至る。

原田自身何を躊躇っているのかと、苦笑せずにはいられない。
ありのまま、般若面をかぶった女の鬼に会ったと言えば良いはずだ。
そうすれば、後はいつも通り土方あたりが、どうすべきか考えてくれる。

だが原田は、土方達がその女を敵と見なして欲しくない、と思ってしまう。

(・・・・・どうかしちまったかなぁ・・・・・)

内心原田は溜息を漏らしつつ、沖田には曖昧に笑ってみせた。


* * * *


「え!?お・・・・俺たちも?」

原田の誘いに、流石に藤堂は躊躇いを隠しきれないでいた。
伊東達と共に、制札警護を辞退した引け目がそうさせた。

そんな藤堂の胸中の葛藤を知って知らずか、原田は闊達に笑ってみせる。

「おうよ、俺の武勇伝を延々と聞かせてやるからよ!!」

「・・・・・それは余計」

「何だって??」

「いや、別に・・・・・」

原田の鋭い眼光に、慌てて誤摩化し笑いを浮かべた藤堂は、隣にいる斎藤をちらりと見た。
斎藤も藤堂と共に、この件を辞退している。
どうするのかと問いかける様な藤堂の視線に、斎藤は静かに口を開いた。

「左之・・・・・気持ちはありがたいが・・・・・」

「いのりも誘ってあるんだ」

「行こう」

「「即答かよ!!」」

斎藤の変り身の早さに、思わず藤堂と原田が同時に声を上げた。
その見事な調和ぶりに、藤堂と原田は顔を見合わせ、たまらず吹き出した。

「まぁ、内心はどうあれ、仲間の武勲を祝ってくれよ。俺の奢りだし」

原田の言葉に、斎藤と藤堂は快く了承した。


* * * *


斎藤と藤堂を誘ったその足で、原田はいのりの元へと向かった。
もちろん斎藤に言った通り、 いのりを飲みに誘うためだ。
斎藤を引き込む為に咄嗟に出た言葉で、順序が逆になってしまったが、まぁいいだろう。

「え!?私もご一緒していいんですか??」

喜んで飛び上がるいのりに、原田も満足そうに頷いた。

「もちろんだ。いのりには色々心配かけたからな。
 まぁ、ちょっとしたお詫びだ」

「そんな・・・・お詫びだなんて・・・・。
 でも、嬉しいです」

にこにこ笑ういのりを見て、ふと、原田が気付いた。

「っつーか、その格好じゃ不味いな・・・・」

「え?、ああ、もちろん着替えていきますよ?」

濡れた前掛を握り、笑って答えたいのりに、原田は言葉を濁した。

「いや・・・・そうじゃなくってだな・・・・・今日行くのは、島原の揚屋なんだ」

「・・・・・・・・え・・・・・・・」

(昼間ならまだしも、夜は・・・・なんだか・・・行き辛いなぁ・・・)

揚屋は置屋から芸妓や娼妓を呼んで、遊興する場だが、昼間は文化や文芸の交流の場であった。
実母を揚屋に連れて、親孝行する志士達もいたが、大抵夜は宴会後に娼妓と床を共にする事を目的とする者が多い。

さすがのいのりも、その辺りは島原への潜入経験や、永倉などの話から察する事が出来る様にはなっていた。
男達の夜の宴会に若い娘が一緒するのは、どう考えても世間的には奇異な事である。

恨めしげに睨め付けるいのりに、原田は慌てた。

「い・・・・いや、その・・・・・そうだ!!
 巡察の時みたいに、男の格好していけば良いんじゃねぇか?・・・・・」

原田の苦し紛れの一言に、 いのりは背の高い原田を上目遣いで睨む。

「そんな、男装なんて・・・・・・・」

「駄目か・・・・・・・?」

「面白そうですね!!!」

「は?」

ぱっと顔を明るくしたいのりに、原田は自分で言っておきながら驚いた。

「・・・・・良いのか?」

「はい!一度ちゃんとした男装してみたかったんです!
 楽しそうじゃないですか!」

「・・・・・そうか??」

原田にはよくわからない。
もし、自分が女装しろなど言われたら、恐らく言った奴をぶっ飛ばす。

いろんな意味で、いのりは何にでも積極的な明るい性格なのだろう、と原田は苦笑と共に納得した。

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