山崎烝の新選組日記

□我、らゔろまんすに勝手に巻き込まれるの事 その弐
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敬愛する副長から全てを任され、俺の心は高揚する。
例えどんな結果になろうと、ここはきっちり仕事をこなして、新選組に貢献してみせる!!

「はい!不肖(ふしょう)山崎、全身全霊を持って、この事件の解決をしてみせます」

・・・じっちゃんの名にかけて!!
いやいやいや・・・なんか変な台詞が脳を過ったぞ。

とにかくじっとなどしていられない。
早速、伊勢屋の現在の状況を更に詳しく調べ、町の噂となっている薬の正体を突き止めなければ。

「では、失礼します!!」

勢い良く頭を下げると、俺は副長の部屋から急いで辞(じ)した。
何やら土方さんの声が聞こえたが、俺の奮い立った心に余裕は無く、振り返る事もせず自室へ急ぐ。
だが、確固たる決意を胸に突き進む俺を阻む様に、ゆらりと影が姿を現した。

「あれ?山崎君、まだ仕事してるの?熱心だなぁ?」

感心しているとか、呆れているとか言う口調ではない。
はっきりと人を揶揄う様にこの発言をするものなど、だだ一人しかいない。

「・・・そういう沖田さんは、まだ寝ないのですか?」

足を止め、猜疑(さいぎ)心を込めてそう返すと、沖田さんは人懐っこい笑みを浮かべて近付いてきた。
世の女性を蕩(とろ)けさせるような甘い笑顔も、俺に取っては警戒すべきもの以外の何ものでもない。

「ん〜〜。もう寝ようと思ったんだけど、気になってね」

「何をですか?」

「・・・その子をさ、山崎君がどうするのかな〜〜って」

「・・・その子?」

嫌な予感がした。
慌てて振り向くと、当然の如く伊勢華が俺の背後にぴったりくっついていた。

「はっ!?・・・な・・・何であんたがここにいるんだ」

俺の驚きが理解できていない様で、華はきょとんとした顔で小首をかしげる。

「・・・えっと・・・では、私はどこへ行けばよろしいのでしょう・・・?」

「俺が知った事か・・・!!」

と言いかけて、俺は土方さんの言葉を思い出した。

「山崎、この件は全てお前に預ける。
 お前の好きな様にしろ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ってことは、この娘の面倒も俺がみるのか??

目眩がする・・・。
身内でもない年頃の娘を、どう扱って良いものか・・・。
俺は途方に暮れてしまった。

(全くもって、厄介な娘だ・・・)

自分に取って一番大切なものは、この新選組に他ならない。
余計な事にまで心を砕いてなどいられない。
そう思いながらも、困った顔でこちらを仰ぎ見る華の、俺を信頼し切った澄んだ瞳に、俺は狼狽(うろた)えてしまう。

「まぁとにかく、今日の所は取りあえず寝た方が良いんじゃない?」

珍しく沖田さんが助け舟を出してくれた。

「・・・そうですね・・・。今日の所は屋敷も大騒ぎでしょうから、動けませんからね。
 では、君の部屋は・・・」

「この先を行った、突き当たりの右の部屋ね」

沖田さんの言葉に、俺は仰天した。

「・・・っ!?沖田さん!?そこは俺の・・・」

慌てて抗議しようとした俺の顔を片手で押さえ、沖田さんは笑顔を崩す事無く、指先に力を加えて締め上げてきた。
悶絶する俺を尻目に、沖田さんは優しげな笑顔を華に向け、労(いたわ)る様に更に続ける。

「君も大変だったね。疲れただろうから、ゆっくり休むんだよ」

「はい、ご迷惑をお駆けして、本当に申し訳ありません」

華が深々と頭を下げると、沖田さんがようやく手を放し、俺に満面の笑みを向けた。

「ほらほら、山崎君。何ぼうっとしてるのさ。
 早く彼女を案内してあげなきゃ」

この時程、沖田さんの笑顔に殺意を覚えた事はなかった・・・。



* * * *



確かに新選組と名を改め、隊士の数が増えたこの屯所に、『客間』なるものはない。
まさか年頃の娘を、男たちが雑魚寝している部屋へ押し込むなど、危ない事はできない。

ましてや、華はいずれ家へ帰す娘だ。
傷一つでも付けようものなら、後々問題になりかねん。
彼女の身の安全を第一に考え、配慮せねばならない。

仕方なく、俺は自室を娘に提供する事にした。
俺自身は、言い出しっぺの沖田さんの部屋にでも、押し入れば良い事だ。

彼女を部屋へと案内しつつ、俺はまた一つの問題に直面した。

華を新選組にいる間、どう扱うかという事だ。
この伊勢屋の問題がいつ解決するかも分からぬのに、ずっと部屋に閉じ込めておく訳にもいくまい。

かといって、屯所内を自由にさせると、他の隊士の眼につくだろう。
すると無論、あの娘は誰だという話になる。
そこで彼女が伊勢屋の娘だと、幹部はともかく他の隊士に身分を明かせば、
今度は何故商家の娘が屯所にいるのだという事になる・・・。

全く面倒な話だ・・・。

俺がげんなりしている間に、部屋の前へと着いた。

「暫く、この部屋を使ってくれ。
 何か他にいるものがあったら、俺に言ってくれ」

そう言うと、華は嬉しそうに微笑んだ。

「山崎様・・・何から何まで・・・本当にありがとうございます」

耳慣れぬ言葉に、俺は顔を真っ赤にして狼狽えた。

「っ!?・・・や・・・山崎様!?」

「・・・はい?」

俺の当惑など思いも寄らなかった様で、華は不思議そうに小首を傾げる。

「・・・い・・・いや、俺は・・・その・・・別に身分の高いものでも無いし、あんたの店の客でもない。
 だから、そんな大仰(おおぎょう)な敬称など・・・」

「いいえ!山崎様は、私の命の恩人・・・。ともすれば、『伊勢屋』を救済していただけるやも知れぬ方・・・。
 少しも大げさなどではありません」

そうはっきりと言い切り、俺を仰ぎ見る華の瞳は、敬意と信頼が瞬いているようだ・・・。
何となく気恥ずかしくなり、俺は目を逸らす。

「・・・と・・・とにかく、今夜は疲れたろう。
 ゆっくり休んでくれ・・・」

辛うじてそれだけ言うと、俺はそそくさとその場を離れ、沖田さんの部屋へ突撃しようとした。
しかし、直ぐに一抹の不安が頭を過った。

ここは荒くれ者の男たちが集う、新選組の屯所。
今はそこに若くて綺麗な娘が、ただ一人身を置いている状態だ。
そんなもの、飢えた野獣の群れの中に、可愛い小兎を放り込む様なものだ。

「・・・・・・・・・・・・仕方ない・・・」

「・・・山崎様?」

「俺はここにいるから、安心して眠ってくれ」

「そんな・・・。今は昼日中はまだ暖かいですが、夜はこれからどんどん冷えていきます・・・。
 風邪を召されたら大変です」

俺の事を心底心配する華の素直な瞳に、ぎゅっと心をわしづかみされたかの様に切なく疼く。

「だ・・・大丈夫だ。俺はそんなにひ弱じゃない」

辛うじてそう無愛想に言い放つと、俺は華の返事を待たずに背を向け、どかりと回廊に座り込んだ。
これ以上俺に何を言っても聞かぬと分かったのだろう、華は遠慮がちに障子を閉めた。

「山崎様・・・」

「・・・なんだ・・・?」

「・・・・・・お休みなさいませ・・・」

「・・・ああ・・・・・・」

素っ気ない返事をしつつも、俺は口の端が緩むのを自覚した。

(何と無垢な娘だ・・・・・・)

今まで見てきた京の商家の娘という者は、皆身なりは綺麗だが、貧しい者や粗野な武士を、見下し蔑(さげす)んでいた。
だが、華は其の様なそぶりを一切見せなかった。
それ所か、正体も知れぬ自分に身を任せ、ここが京では悪評高い新選組の屯所と知っても、嫌な顔一つせず、
あまつさえ自分に信頼を寄せて来る・・・。

全く・・・俺が悪い男だったらどうするつもりだったのか・・・。
隙だらけの危なっかしい華の言動に、俺は落ち着きを欠いた。

(・・・せめて・・・華がここにいる間は・・・俺がちゃんと守ってやらねば・・・)

障子越しに、華の静かな寝息が聞こえる・・・。
今頃無邪気な寝顔を浮かべ、安心して深い眠りについているのだろう・・・。
何だか、背中が熱い・・・。

(・・・らしくないな・・・・・・)

俺は沸き起こる妙な感情を沈めるため、激しく頭を振った・・・。







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