山崎烝の新選組日記
□我、新たな趣味に目覚める(!?)の事
2ページ/4ページ
* * * *
陽が傾き始めた頃、例の出会茶屋へ沖田さんと二人で向った。
沖田さんも俺もそういう趣味はない質(たち)だから、お互い反吐(へど)が出そうなくらいの不快感を抱きつつも、
表面上は仲睦まじい男女を演じるため寄り添い合う。
背の高い沖田さんに撓垂(しなだ)れ掛かれば、男の俺でも華奢に見えるだろう。
体を密着させると、一瞬沖田さんが怯えたようにぎょっと目を見開いたが、俺は艶かしい笑みを浮かべつつ心の中で
(任務じゃ、ボケ!!)
と悪態をついていた。
* * * *
出会茶屋へは何の問題もなく入れた。
宛てがわれた部屋に入ると、すぐに俺達は互いに弾かれたように飛び退(しさ)り、大きな溜め息をついた。
何だかどっと疲れが・・・・・・。
(早く終わらそう・・・・・)
沖田さんも俺と同意のようで、殊(こと)の外(ほか)真面目に内偵を始めた。
こっそり茶屋を調査すると、情報通りに不逞浪士達が密会を開いていた。
本来密会するなら堂々と遊郭や、男色の陰間茶屋を使えばいい。
それなら俺もこんな女装をせずにすんだのだが、この浪士達は遊郭に入れる程の金もなく、
陰間茶屋では密偵が入りやすいと考え、この出会茶屋にしたのだろう。
ここに怪しまれずに入る為だろうか、恋仲を演じるのにちらほら女装している奴がいた。
何故、本物の女でなく女装だと看破できたかというと、俺の方が数段綺麗だったからだ!!
・・・・・・・・・・って勝負してねーよ!!
* * * *
大体の調べは付いたため、俺と沖田さんは茶屋を出る事にした。
もう既に外は暗くなっている。
「帰りは別に恋仲を演じなくても良いよね?」
任務が終わったとばかりに、沖田さんは気の緩んだ発言をする。
「いいえ、屯所に戻るまでが仕事です」
家に帰るまでが遠足ですと諌める教師のように、俺はぴしゃりと言い切った。
「・・・・・・・・山崎君・・・・・・まさか、その気になってないよね??」
「はぁ!?」
恐る恐る俺の顔を遠目から覗き込む沖田さんに、俺は絶句した。
何?何??俺ってそういう風に見えた!?
「任務です!!!!」
顔が真っ赤になるのを自覚しながら俺は反論したが、沖田さんがちゃんと理解したかは不明だ。
「まぁいいや、外に出たついでに何か買っていこうっと」
「沖田さん!!」
俺が注意したにも拘(かかわ)らず、沖田さんは軽妙な足取りで、店仕舞を始めている露店を覗き始めた。
全く・・・・・何てちゃらんぽらんな人だ・・・・・。
俺が憤慨していると、不意に背後から人の気配が立ちこめた。
(!?敵か!?)
慌てて振り向き様に刀を抜こうとして・・・・・手が宙を掴む。
それもそうだ、今は女装をしていて俺は佩刀していなかったのだから。
背後の陰は、そんな隙を作ってしまった俺の振袖ごと腕を掴み、口に猿ぐつわをし、
裏路地へと引きずり込もうとする。
(ヤバい!!!)
俺は直ぐさま沖田さんを見た。
すると、当の沖田さんは露店の店主と、何やらにこやかに話をしているではないか!!
(てめぇ!!この沖田!!ぼけっとしてねぇで、俺を助けろ!!!)
俺の心の叫びが聞こえたのか、沖田さんはちらりとこちらを見た。
が、にやりとした笑みを浮かべると、また店主と話を始めた。
あああああぁぁぁぁああああ!!!見捨てる気、満々だあぁああぁああ!!!
着慣れない振袖と影から伸びた腕が俺の自由を奪い、情けない事に俺は裏路地まで引っ張り込まれてしまった。
ヤバい!!ヤバいぞ!!
何がヤバいって・・・・・・・・・・・
俺の貞操がヤバいいいぃぃぃぃい!!!!