山崎烝の新選組日記
□我、新たな趣味に目覚める(!?)の事
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* * * *
「ねぇ、僕の可愛い子猫ちゃんに、あんまり意地悪しないで欲しいなぁ・・・」
この状況下に似つかわしくない程、のんびりした声が遥か頭上から降り注いだ。
聞き覚えのある声・・・・・・・・。
この声は・・・・・・・・・・・。
俺が空を仰ぎ見ると、家屋の屋根のてっぺんに足を投げ出して座っている沖田さんの姿が、月明かりの中浮かんでいた。
突然現れた邪魔者に、破落戸達は激高する。
「なんや、手前ぇ!?」
「やるんか!?」
「下に・・・・降りて来い・・・・・や・・・・・」
「「お前、大丈夫なんか!?」」
何とか復活した俺の金蹴りを受けた男も、仲間に心配されながらもヨロヨロと立ち上がり、
脂汗を滲(にじ)ませながら沖田さんを睨み上げた。
そんな下界の様子を面白そうに眺めていた沖田さんは、不意に立ち上がり、屋根を蹴って宙に舞った。
白銀の月光の下、美しく躍動(やくどう)的に舞い降りる沖田さんの姿に、
俺も含め破落戸どもも眼を奪われてしまった・・・・・。
だが地に降り立った瞬間、沖田さんの剣光が鋭い雷電のように閃き、三人の破落戸達はあっという間に地に伏した。
全てが一瞬の出来事だった・・・・・・。
惚けて地べたに座り込んだ俺の前に、沖田さんはしゃがみ込み優しげな笑みを浮かべた。
「大丈夫だった?子猫ちゃん」
「沖田さん・・・・・・もしかして・・・・・」
「うん、ずっと上から見てたよ♪」
ぴき・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
嬉々として話す沖田さんの言葉に、俺のこめかみにヒビが入った。
「一遍、正義の味方みたいな事してみたかったんだよね〜〜。
で、格好よく登場する機会を窺(うかが)ってたんだ」
ぴきぴき・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
恐らくあの茶屋から男達が、後を追ってきていた事も承知していたのだろう・・・・・・・。
「いやあぁ山崎君の貞操の危機。新八さん達に良い土産話ができたよ♪」
ぷつん・・・・・・・・・・・・・。
切れた・・・・・俺の中の何かが切れた・・・・・・。
「沖田あああぁぁぁぁぁあああああ!!」
* * * *
「しかしさぁ・・・・・総司と山崎君っていう組み合わせ。ヤバいんじゃないの?」
藤堂が屯所の門の外で、頭の後ろで手を組みながら、斎藤達にのんびりと声をかけた。
「まぁなぁ・・・・・。二人して気質が正反対だからな」
「方や真面目で土方さんを尊敬してて、方や不真面目で土方さんに反抗的。確かに面白い程正反対だなぁ」
永倉と原田がそれぞれ応じると、斎藤が静かに口を開いた。
「だが、正反対だからこそ上手くまとまると、予想以上の力を発揮すると思う」
「へ〜〜〜〜〜〜」
異口同音で三人の幹部達は感嘆の声を上げた。
ふと何やらけたたましい足音が、凄まじい勢いでこちらに近付いてきているのに、皆が気付いた。
何事かと視線を向けると、闇の奥から無表情の沖田が、こちらに全力で疾駆(しっく)しているのが見えた。
「よう、総司。首尾はどう・・・・・・だった?」
二人を興味本位・・・・・もとい、心配して門の外に迎えに出てきていた斎藤達に、
沖田は何の反応も示さず疾風(はやて)のように駆け抜け、屯所の中へ滑り込んでいく。
「・・・・・・山崎は?」
斎藤が不審に思い眉をひそめて辺りを見回すと、沖田が走ってきた道から、
振袖と髪を振り乱して鬼の形相でこちらに向って、爆走してくる化け物の姿が見えた。
「ぅうおおおぉぉおきぃいいいいいぃたぁあぁあああああ!!!!」
「ぎゃーーーーーーー!!山姥(やまんば)だぁあああああぁあ!!!」
藤堂の絶叫が夜の静かな京の町に響いた・・・・・・・・。
* * * *
俺と沖田さんの内偵は、きっちり完遂した。
その沖田さんは、ここ最近何だかやけに大人しい。
だが、これは嵐の前の静けさであって、俺は絶対に気を抜かない。
全く油断できない人だ。
ところでここ数日、幹部の人達が夜うなされているようだが、何かあったのだろうか・・・・・。
ともかく、もう女装だろうが何だろうが、物怖じしなくもなった。
監察方として、俺はまた一歩成長したという事なのだろう。
そして俺は、この新選組一の女性解放論者(ふぇみにすと)となった事は語るべくもない・・・・・・。
負けるな女の子!!!(裏声)
・・・・・・・・・・・・・あれ?
*薄桜鬼夢小説rank*