山崎烝の新選組日記
□我、本領を発揮するの事
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「ぬぁぐぁくぅらぁああああぁあぁ!!」
「へ・・・・・・・?」
まるで鬼の形相の俺に、赤子の父親たる永倉新八は、顔を強張らせる。
「え・・・・・えっと・・・・や・・・・山崎・・・・・ち・・・・違うぞ」
「何が違う!!!」
俺はある一件以来、新選組きっての『ふぇみにすと』となったのだ。
女を弄(もてあそ)び赤子まで産ませて、自分は知らぬ存ぜぬなど、お天道様が許しても、この俺が許さねぇ!!
・・・・・・何か違う。
ともかく、赤子の父親は慌てた様子で、二人の飲み仲間に助けを乞うように、引きつった笑みを向ける。
「い・・・・今からちゃ〜〜んと巡察に行こうとしてたんだよ。な?な?左之、平助」
「そ・・・・そうだよ、山崎君。今、正に、この瞬間に行こうとしてたんだよ〜〜〜」
「その話じゃない!!!!!」
二人の的の外れた言い訳など聞く耳持たず、俺は不実な男の耳を引っ張り部屋を出た。
「・・・・・・何?どうしたの?山崎君」
「・・・・・・・さあ?」
残された二人は、俺の怒りの意味が分からず、ぽかんと俺達を見送っていた・・・・。
* * * *
「いたたた・・・・・痛ぇって、山崎!!お前何そんなに怒ってんだよ!!」
俺の手を振り払い、己の罪の自覚なく、平然と抗議している男に俺は鋭く囁いた。
「永倉さん、あなたに会いたいという人が来てます」
「ふ〜〜〜ん」
ふ〜〜んじゃねぇよ!!何を他人事みたいな!!
「誰?男?女?」
「女性です」
俺の言葉に不埒な男は反応した。
「え!?何?若い?美人??」
「・・・・・・・・・・・・・・・子連れです」
「人妻かぁ〜〜〜」
俺が意味深に応えたのにも関わらず、この男はのほほんと変な想像に胸を膨らませ、鼻も膨らませた。
「・・・・・・・・・・・・自覚がない様なので言っておきますが、
その連れられてきた赤子、永倉さんの子どもですよ」
瞬時に空気が凍った・・・・。
この麗らかな春の陽射しが降り注ぐ中、何故か俺と永倉さんの間には、冷えきった風が吹き渡る。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
え?じゃねえ!!
本当に無自覚だったらしく、二番隊組長とは思えない程、間の抜けた顔をした。
「ま・・・・・待て待て待て待て!!」
俺はどこへも行くつもりもないのに、不純な男は慌てて俺を制す。
「お・・・・おおおおお俺は、知らねーぞ!!全く身に覚えねぇよ!!」
俺は冷ややかな目で、必死に否定する男を見やった。
「本当だって!!俺は自慢じゃねぇが、島原でモテた事も無けりゃ、
町娘に手を出した覚えもねぇ!!」
「でもあの女性は、この子の父親は『永倉新八』だと・・・・・」
「いやいやいやいやいや・・・・!!人違いだって!!永倉仁八とか、中倉新八とか・・・・」
何とか否定しようとしている男に、俺の冷静な声が突き刺さる。
「あの女性は、『新選組二番隊組長、永倉新八』が父親だとと言っていましたが、
どこかにもう一つ新選組があって、二番隊があって、
そこの組長が永倉新八という同姓同名の男・・・・と言う事でしょうか??」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうかも」
んなわけあるかぁあああぁぁ!!
「とにかく会ってください」
俺は未だに否認し続ける、諦めの悪い男の腕を取り、正門まで引っ張った。
その間も、実は俺には双子の弟がいたのかもしれない
もしかしたら、あの芸妓?いやいや・・・・それともあの時の?いやいや・・・・
などとブツブツ言っていたが、完全に無視した。
「お待たせしました。永倉さんをお連れしました」
俺の声に嬉しそうに振り向いた女は、連行してきた男と同時に声を上げた。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・誰?」」