山崎烝の新選組日記

□我、本領を発揮するの事
2ページ/4ページ



「ぬぁぐぁくぅらぁああああぁあぁ!!」

「へ・・・・・・・?」

まるで鬼の形相の俺に、赤子の父親たる永倉新八は、顔を強張らせる。

「え・・・・・えっと・・・・や・・・・山崎・・・・・ち・・・・違うぞ」

「何が違う!!!」

俺はある一件以来、新選組きっての『ふぇみにすと』となったのだ。
女を弄(もてあそ)び赤子まで産ませて、自分は知らぬ存ぜぬなど、お天道様が許しても、この俺が許さねぇ!!

・・・・・・何か違う。

ともかく、赤子の父親は慌てた様子で、二人の飲み仲間に助けを乞うように、引きつった笑みを向ける。

「い・・・・今からちゃ〜〜んと巡察に行こうとしてたんだよ。な?な?左之、平助」

「そ・・・・そうだよ、山崎君。今、正に、この瞬間に行こうとしてたんだよ〜〜〜」

「その話じゃない!!!!!」

二人の的の外れた言い訳など聞く耳持たず、俺は不実な男の耳を引っ張り部屋を出た。

「・・・・・・何?どうしたの?山崎君」

「・・・・・・・さあ?」

残された二人は、俺の怒りの意味が分からず、ぽかんと俺達を見送っていた・・・・。


* * * *


「いたたた・・・・・痛ぇって、山崎!!お前何そんなに怒ってんだよ!!」

俺の手を振り払い、己の罪の自覚なく、平然と抗議している男に俺は鋭く囁いた。

「永倉さん、あなたに会いたいという人が来てます」

「ふ〜〜〜ん」

ふ〜〜んじゃねぇよ!!何を他人事みたいな!!

「誰?男?女?」

「女性です」

俺の言葉に不埒な男は反応した。

「え!?何?若い?美人??」

「・・・・・・・・・・・・・・・子連れです」

「人妻かぁ〜〜〜」

俺が意味深に応えたのにも関わらず、この男はのほほんと変な想像に胸を膨らませ、鼻も膨らませた。

「・・・・・・・・・・・・自覚がない様なので言っておきますが、
 その連れられてきた赤子、永倉さんの子どもですよ」

瞬時に空気が凍った・・・・。
この麗らかな春の陽射しが降り注ぐ中、何故か俺と永倉さんの間には、冷えきった風が吹き渡る。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」

え?じゃねえ!!
本当に無自覚だったらしく、二番隊組長とは思えない程、間の抜けた顔をした。

「ま・・・・・待て待て待て待て!!」

俺はどこへも行くつもりもないのに、不純な男は慌てて俺を制す。

「お・・・・おおおおお俺は、知らねーぞ!!全く身に覚えねぇよ!!」

俺は冷ややかな目で、必死に否定する男を見やった。

「本当だって!!俺は自慢じゃねぇが、島原でモテた事も無けりゃ、
 町娘に手を出した覚えもねぇ!!」

「でもあの女性は、この子の父親は『永倉新八』だと・・・・・」

「いやいやいやいやいや・・・・!!人違いだって!!永倉仁八とか、中倉新八とか・・・・」

何とか否定しようとしている男に、俺の冷静な声が突き刺さる。

「あの女性は、『新選組二番隊組長、永倉新八』が父親だとと言っていましたが、
 どこかにもう一つ新選組があって、二番隊があって、
 そこの組長が永倉新八という同姓同名の男・・・・と言う事でしょうか??」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうかも」

んなわけあるかぁあああぁぁ!!

「とにかく会ってください」

俺は未だに否認し続ける、諦めの悪い男の腕を取り、正門まで引っ張った。
その間も、実は俺には双子の弟がいたのかもしれない
もしかしたら、あの芸妓?いやいや・・・・それともあの時の?いやいや・・・・
などとブツブツ言っていたが、完全に無視した。

「お待たせしました。永倉さんをお連れしました」

俺の声に嬉しそうに振り向いた女は、連行してきた男と同時に声を上げた。

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・誰?」」


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ