山崎烝の新選組日記

□我、本領を発揮するの事
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誰じゃねぇよ!!てめーら!!

俺は吹き出す怒りを抑え、青筋を立てながら冷静に話す。

「いや、だから、この人が『新選組二番隊組長、永倉新八』さんですが・・・・・」

「でも・・・・・・」

と女は戸惑った様に、言葉を紡ぐ。

「でもあの人は、もっと秀麗な顔つきで、よく響く美しい声で、品も良く、知性溢れる方でした・・・・」

そう言われると永倉さんが、厳つくてだみ声で品がなくて知性が無いようじゃないか・・・・・・。

俺の視線の意味に気付いたのか、女は慌てて謝罪する。

「す・・・・すみません、別にあなたが、厳つくてだみ声で品がなくて知性が無いとは言っていません」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・言ってますがな。

気を悪くしたのか、じっと黙って真剣な顔で俺達の会話を聞いていた永倉さんが、静かに口を開いた。

「・・・・・・・・・・・どんな男だ」

・・・・・いや、だからさっき言ってたじゃん。
あんたと正反対の男だよ。

「俺の名を語り・・・・・・女を弄ぶなんて・・・・・・なんて羨まし・・・・・
 こほん、もとい、なんて不逞な野郎だ・・・・・」

・・・・・・聞こえたぞ。

いきなりがっしりと女の両肩を掴み、赤子に微笑んだ永倉さんは、朗々とした声で宣言した。

「待ってろ!俺が必ずその男を捜し出し、きっちりケジメ付けさせてやる!!!」



* * * *


「・・・・・・・・・・・・と言うわけで、頼んだぞ、山崎」

待て待て待て待て待て・・・・・・・・・!!!

「俺はどこにも行かんが?」

うるさい!!
勝手に俺の心を読むな!!

「何が頼んだですか!!自分が言ったんでしょうが!!その男を捜し出すって!!」

「だってよぉ〜〜。俺も巡察とかで探してみるけどさぁ〜。
 やっぱり、こういうのは監察方の方が、得意だったりするじゃん?」

そのしゃべり方やめろ・・・・・・・。

永倉さんのくねくね攻撃が効いたわけではないが、俺は一応不純な男探しを了承した。
女を泣かす様な男は許せないし、第一、新選組幹部の名を語って悪事をする輩など、放っては置けん。


* * * *


女は大坂の、なかなかでかい旅籠屋の一人娘だった。
永倉新八を名乗る青年と出会い、惹かれ合い、愛し合い、将来を誓ったそうだ。
永倉青年は新選組を抜けて旅籠屋を継ぐと言ってくれ、親も男の誠実さを認め、二人の間は順風満帆だったそうだ。

だが男は、やはり武士として身を立てたいと、新選組に戻ると言い出した。

「必ず京で立派な武士になってみせる。そうしたら、京へお前を呼ぶから・・・・・」

こうして男は子を身ごもった女を置いて、一人京へと向ったらしい。

暫くして女は赤子を産んだ。
まだ連絡が無いという事は、男はまだ成功していないのかもしれない。
だが、無事に子どもが産まれた事を知らせたい。
少しでも子どもを抱かせてやりたいと、女は一人、乳飲み子を抱いて遥遥(はるばる)大坂からやって来たのだ。

「そうしたら、こんな厳(いか)つい、全く似ても似つかぬ男が出てきたのか。
 そりゃ、女も気の毒だったなぁ・・・・・」

揶揄い半分で、話を聞いた原田さんが笑ったが、永倉さんは抗議もせず、むっとして黙ったままだ。

「で?どうするんだ?」

「行くさ。きっちりケジメ付けさせる」

そう言い切った永倉さんは、勢い良く立ち上がった・・・・。

そう、俺は監察方の本領を発揮し、その男の居場所を突き止めたのだ・・・・・。

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