恋一小説続き物

□黒崎先生の事情
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「よく頑張ったなー」
一護は診察を終えてぐずぐずと泣きそうになっている子供の頭を撫で待合室に送り出した。
小さい子供は白衣を見ただけで泣き出す子も居て最初はショックを受けたものだが、ずいぶん慣れてきたものだ。
クロサキ病院は町の小さな病院で今は一護一人で診療を行っている。
元は父親が開業した病院だが一護が研修を終えてすぐに武者修行の旅に出るとだけ残し失踪、妹達に手伝って貰いながらなんとかやっている。

「お兄ちゃんごめん私達もう出かけるね」
午前中ナース姿で手伝ってくれていた遊子と夏梨は午後から大学の講座へと出かけて行く。
「心配すんなよ、午後は休みだし今日あと予約アイツだけだからな」
「あの人まだ来てるんだ?」
夏梨は顔をしかめながらそう言った。
「まぁ淋しい奴の話し相手するのも町医者の仕事だ、それより遅れるぞ」
何も解っていないと、夏梨はため息をつく
「気をつけなよ一兄、行ってきます」
心配してくれる妹達を送り出し一護は最後の患者が来るのを待つ。
暫くすると
「よう一護ー久しぶりだなー会いたかったぜ!!」
騒がしく派手な紅い髪の男が元気に入って来た。
「おい、恋次!!具合が悪くて今朝電話してきたんじゃねぇのか?」一護が呆れながら恋次を叱る。
「いや、お前の顔見たくなってよ」
悪びれもなくそう言うと、お詫びにこれと甘い匂いのする包みを押し付けられた。
「おまえなーだいたい久しぶりでもねぇ」
恋次は駅前のシルバー屋店主、派手な紅い髪に人を威嚇する入れ墨を額に入れている。
遜色なく柄の悪い恋次が屈託なく笑うとギャップが狡い気がする。

恋次と出会ったのは学会の帰り道、電柱とごみ箱の間に座り込んでいるのを発見したのが最初だ。
一瞬チンピラが泥酔しているのかと思ったが、彼は高熱と眩暈で動けなくなっていたのだった。
職業柄というのではないがそんな恋次に声をかけて連れ帰り、看病をしてから変に懐かれてしまった。
「休日に他に行く所ないのかよ、淋しい野郎だなー俺が誰か紹介してやろうか?」
恋次が持ってきたお菓子でお茶にする事がだいぶ定番化しつつある。
一護はシュークリームをひとかじりしながら何気なくそう勧めた。
「え?一護お前紹介出来る奴とか居るのか!」
一護には紹介出来るような人は居ないと思い込んでいたのか恋次は凄く驚いた様子だ。
「なんだその反応は、俺ずっと地元ここだし知り合い結構多いぜ」
「ま、まさか付き合ってる奴とか、いいい居るのか?」
さらに食いぎみに聞かれたが
「…悪かったな、今いねーよ」
紹介しようかと言っておきながら自分には決まった人が居ないのは少し決まりが悪いが、今は仕事が忙しく特に必要としてもいなかった。
恋次はそれなりにモテそうなのに、独り身仲間が必要なのが以外だ。
「そっか…そっか…よかった」
心底ホッとした様子で何事か呟いていた。
が急に恋次は居住まいをただすと
「一応、柄にもなくシチュエーションとか考えてたんだが…」
「おう?」
「俺…お前の事が好きだ」
飲もうとしていたお茶を吹き出しそうになった。
「うぐ!?いや、ちょっと待て」
「大丈夫か一護」
恋次はお茶を零しそうになったのを心配してくれたのだが、それどころではない。
「いやお前が大丈夫か?」
聞き間違いかと思ったが確かに恋次は今一護に告白したようだ。
「いや恋次あれだろ?独りでこっち出てきて寂しさとかでなあなあになってるんだろ?」「違う俺は、あの夜お前に一目惚れしたんだ!」
恋次の紅い瞳が真剣に見つめてくる。
一護は恋次の気持ちが本気だと感じるほど焦って否定してしまった。
「それこそ勘違いだって目醒ませよ」
「うるせぇ!俺の気持ちを否定すんじゃねぇ!!!」
茶化すつもりはなかったが真剣な恋次にたいして驚くあまり、失礼な事をしてしまっていた。
「いやいやだけど男同士だぜ、無理だろいろいろ」
イライラしながら恋次は少し考え
「無理じゃなけりゃ付き合ってくれんのか?」
と立ち上がると一護の肩を掴んで椅子から立たせる。
「!!」
「試してみようぜいろいろ?」

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