恋一小説続き物

□黒崎先生の事情10
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ピンポーン


アパートの玄関扉を開けると、一護が俯きながら立っていた。
「よう…」
「おう、入れよ」
なんだか少しぎこちない感じの一護を恋次は招き入れた。
心なしか一護の顔が赤いような気がするのは、恥ずかしさからだろう。
この部屋に一護を入れるのは二回目だが、一度目は事故みたいなものだ。
恋次は自分のテリトリー内に一護が入っていく事になんとも言えない嬉しさを感じる。
一護は恋次の部屋を見回す。
「掃除したんだな」
やっぱり最初に部屋を訪れた時の印象が強いのか片付いている恋次の部屋を見ての感想だ。
一護が来るので掃除はしたが、いつもあんなに汚くしている訳ではない。
「いや、前の時はたまたま汚れてて普段はこんなもんなんだ」
「ふーん」
どうも信じてくれていないようだ。
「いいから入れよ!」
一護を押してキッチンから奥の部屋にと入れた。
部屋の突き当たりに置かれたベッドを見たのだろう。
一護の肩がギクリと跳ね上がるのを肩に置いた腕が感じた。
「あ、え、えっと…その…」
一護は真っ赤になりながらオロオロと目を泳がせる。
今日はそうゆう目的でしかも一護から言い渡して来ているのだ。
物慣れない一護が異常に緊張して、いや怖がっているのが解る。
「ここ座れよ」
「あ、ああ」
布団を外した火燵は夏はそのまま食卓として使っている。
その前のクッションに一護を座らせた。
会って直ぐキスしてベッドに直行も悪くはないが、今日はそのつもりはなかった。
「夕飯作ったんだ腹減ってるだろ?」
「飯…?」
「なんだ食って来たのか?」
「いや、まだ」
「そうか、じゃ少し待ってろ美味い物食わせてやるからな」
一護はがっかりした様なホッとした様な複雑な顔をしていたが恋次は気付かないふりをしてキッチンに立った。
「なんか俺も手伝おうか?」
「いいから座ってろって」
一護の申しでを断ったのは実は準備は万全で料理を少し温め直してよそるだけだからだ。
「うわっすげー御馳走じゃん」
次々と一護の前に料理を並べた。
「今日は記念日だからな、ケーキもあるぜ」一護の好きなチョコレートケーキを食卓の真ん中に置く、二人で食べるので小さなホールケーキだ。
「え?記念日?」
一護の手にグラスを握らせ、そこにワインを注いだ。
「付き合って初日、そうだろ?」
「そうだな」
一護は照れ臭そうにはにかんだ。
「乾杯」
チンと涼しい音をさせてグラスを傾ける。
余り格好付けてもあれなので銘柄などは関係なく手頃な物を選んだが大丈夫そうだ。
まあワインは雰囲気出しで冷蔵庫にはビールなども冷やしてある。
足りなければ後で出せばいい。
一護は半分程飲むと、料理を前に手を合わせる。
「ん、いただきます」
「おう食え食え」
考えてみると久しぶりに一護と一緒に食事をする、やはり好きな人と食卓を囲めるのは嬉しいものだ。
「どれも美味いな!恋次がこんなに料理出来たとは意外だな」
「そうだろう?俺はいい嫁になるぜ」
「嫁なのかよ」
一護の緊張も解け、二人で談笑しながら愉しく食事をした。


「ケーキ甘かったな」
一護が満足そうにそう言った。
「気に入ったか?結構有名な店らしいぜ」
実は檜佐木さんに紹介してもらったお店だった。
檜佐木さんが本気でないと説明したが、それを言うときっと一護の機嫌が悪くなりそうだから秘密だ。
「なにニヤニヤしてんだよ?」
一護が自分の事でやきもちを妬くと思うと顔がニヤけてしまっていたようだ。
「クリーム着いてるぜ」
恋次は一護の顎をすくい上げると、唇の端を舐めた。
「ぅ、ぁ」
一護は小さく悲鳴を上げ俯いた。
恋次の胸に思わずおいた手も突っぱねていいのか迷っている。
何時もならば恋次を殴り飛ばして怒鳴り声を上げているところだが、一護は相当努力をして堪えているようだ。
「一護、そろそろ…」「っ」
恋次は一護の耳に唇を寄せ思わせぶりに言ってみた。
「風呂入るか?」
一護はビクリとしてさらに顔が真っ赤になった。
「あ、ああ、そうだよな風呂入んなきゃだよな……」
立ち上がりお風呂場へと出ていく後ろ姿も気の毒に成る程慌てていて。
きっと長風呂になるだろうなと思いながら見送った。



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