恋一小説続き物

□甘い恋に一敗のチョコレートを
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「オツカレサマデス…」
空座第一病院のロッカールームで、石田は一護に声をかけられた。
「っ…気まずいなら声を掛けないでくれ」
忘年会から顔を合わすのは今年に入って初めての事だった。
あんな事があって以来だ、逆に此処で声をかけなければ、もっと気まずく成るだろう事は石田も解っていたが、そんな悪態がつい口をついて出た。
「いや、…殆ど覚えてねぇんだけど、迷惑かけて……すまん!」
とても目が合わせられないのか、一護は目線をさ迷わせながら、彼にしては珍しく素直に謝った。
「今後は本当に気を付けてくれ…」
一護にされたことよりも、その後被ったあれこれを思いだし石田は赤面したのを誤魔化すように眼鏡の位置を直す。
「お、おう…」
二人はお互いに暗黙の内にこの話は忘れようと心の中で誓いあった。


一護は白衣を脱ぐとロッカーから鞄を取り出す、石田は逆にロッカーに鞄をしまいコートを脱いだ。
一護は帰り支度、石田は仕事の支度をする。
一護は月に一週間程度空座第一病院に出張して来ている。
今日はたまたま石田が父親の執刀の手伝いに来ていて鉢合わせしてしまった。
何にしても気まずいことこの上ない。


「石田先生!」
「黒崎先生お疲れ様です」
そんな時、数人のナース達がロッカールームに入ってきた。
「ハッピーバレンタイン!」
「何時もお世話になっております」
口々にそう言うとピンクや赤の包装紙で包まれた可愛らしいプレゼントを渡される。
「わりぃな、ありがとう」
「……どうも」
お返し期待してる、などと楽しそうに若い女の子達ははしゃぎながら嵐のように過ぎ去っていった。



「モテモテだね君は」
「てめぇもだろ?」
「僕のは義理だよ」
お互いの姿を見合うと、どちらかともなく溜め息をついた。
そう言えばこんなイベントの日だったと気が重くなるのを石田は感じた。
きっと家に帰ればまた自分の恋人にいろいろと言われるだろう。

支度を済ませてロッカーを閉めると、一護も丁度帰り支度が済んだどころだ。
先程貰ったばかりのプレゼントは無造作に鞄のなかに突っ込んある。


「黒崎……君って今日は何かするのかい?」

この前のことで自分達がどうやら同じ立場であることを知った、気まずい気持ちも有ったが、他の誰にも聞けない事が、一護には話せるのかもしれない。
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