短編小説

□見えなくてもそこに居て
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「さてと、そろそろ寝るか」
お風呂上がり髪を乾かし終えた一護は平穏な一日を終えようとしていた。
部屋の電気を消す。
不意にうなじを涼しい風が掠めた。
「あれ?俺窓開けてたか?」
覚えがないが、窓が開け放たれカーテンが揺れている。
一護は窓を閉めようと近付くが
「な!!!」
なにかが突然一護を掴んで引きずり倒した。「!?」
そしてそのままその押さえこまれる。
見えない何かが自分の上に居る、触れる事は出来るが霊圧を無くした一護の眼では捕らえる事が出来ない。
反射的に押し返そうと腕を突っ張っているのは何もない空中なのだ。
「虚!?」
今まで必要以上に幽霊が見えていた一護にとって、初めて正体不明な相手に襲わた恐怖、霊圧を完全に失ってしまった今の自分では抵抗する力はない。
「ーーーーっ」
脳裏に牙を剥き出しにして舌なめずりする虚が過ぎった。
しかし次に一護の目に映ったのは、不思議な光景だった。
触れてもいないのに勝手にパンツのチャックが開き、パジャマ代わりにと着たTシャツがめくり上がる。
「な!?ちょっ…やめ」もちろん一護に見えないだけで、正体不明の何かがしている事だ。
『こ、こいつ死神?アランカルか!?』
Tシャツに侵入してきたモノは触手などではなく感触も大きさも人の手と同じモノ大きな男の手の平だ、触れた身体もきちんと衣服を身につけている様に感じる。
「お前誰なんだ!?」
返事はない。
いや一護には聞こえないのだ、相手の息遣いさえ聞こえない、ただただ透明な何か、誰かに押さえ付けられ暴かれていく。
「やめろー!」
渾身の力で殴り付けるが逆に利き手を捕まえられてしまう。
「ひゃっ…あぅ」
剥き出しにされた一護の胸にぬめった何かが吸い付いた。
「や、やめっ…んっ」
見えない舌が這い回り一護の小さな胸の飾りをなぶる。
そして、一護を押さえ付けてるのと反対の腕が引き締まった腹筋を辿り下肢へとのびる。
『俺コイツにヤられちまうのか!?全く抵抗する事も出来ずに…正体さえ解らないヤツに…』
身体が恐怖で震えるのを抑える事が出来ない。
虚に喰殺される覚悟なら何時でもしてきた、しかしこんな事堪えられない。
「…れ…恋次……嫌だ恋次以外となんてっつう…」
震えるながら自分以外の男の名前を呼ぶ一護に萎えたのか、正体不明の誰かは動きを止め、一護の腕を自由にした。
『や、止めた?止めてくれたのか?』
と思うと、いきなり頭をぐしゃぐしゃと撫で回し強く抱きしめられた。
「わっやっなな何!!?」
なにがなんだか解らないが先ほどとは違う触り方に戸惑う、抵抗が出来ないのは変わらないが明らかに相手の雰囲気が変わった。
暫くして満足したのか相手は一護から身体を離すと、また一護の右手を取り、しかし今度は自分の方にそっと導く。
ガッシリした胸板、太い首、形の良い唇、堀の深い目鼻立ち、鋭い釣り目、そして変な眉毛にーM字ハゲとくれば
「恋次ーーーー!!!!」恋次の手を振りほどいて一護の右ストレートが恋次の顔面に炸裂する。
「っいってー!!」
と悶絶したのは一護の方だった。
霊圧の高い恋次を殴る事は生身でコンクリートの壁を渾身の力で殴ってしまったのと同じである。
恋次を殴って痛がる一護を恋次がさすってくれる。
「…お前俺をおちょくりにわざわざ来たのかよ」
するとまだ痛む右手を恋次がさすりながら手の平に文字を書き始めた。
[悪い、驚かすつもりじゃなかった]
「驚くだろ、こっちは何にも見えねぇんだぞ」
するとまた手の平に文字が
[顔を見たら止められなくなった]
[会いたかった]
「…っ」
一護は赤面して俯くと、恋次の手を取って今度は一護が恋次の手の平に文字を書いた。
[      ]
恋次は一護を驚かさない様にそっと頬に触れてキスをした。


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